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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-142

「……とにかく、きっちり規則正しく生活をおくること。これは、普段でも大事なことだけど、妊婦さんにはもっと大事なことなのよぉ」
 三食を欠かさず摂取し、適度な運動に汗を流す。花江のレクチャーは、なおも続く。
「お食事もぉ、きちんとバランスを考えてねぇ。カロリーを考えて、お野菜をメインに工夫して、塩分はとりすぎないようにねぇ。食べないのはダメだけど、食べすぎもダメですからねぇ」
 窓の外では、郷市が畑仕事に精を出している。鍬を振り下ろす父の姿を、弥生は見たことがなかった。
「あとね、適度に怠けることも必要よぉ。旦那さんに、面倒な家事を押し付けちゃうとかしてぇ……妊婦はねぇ、偉いの。だから、辛いときは無理をしないで甘えていいのよぉ、心のゆとりを忘れちゃダメ」
『ひえぇぇぇ!! へ、ヘビぃぃぃぃぃ!!』
 くすくすくす、と妊婦の間で笑いが起こる。窓の外の郷市が、ここまで聞こえる声で叫び、飛び跳ねていたからだ。
「そうよぉ、そのゆとりを、忘れないでねぇ」
 そんな具合に、毎日は過ぎていった。





「お父さん」
 入院生活から、はや半年近くが経過した。郷市も畑仕事にすっかりなれて、彼の精魂が篭った実りが食卓には多く並ぶようになった。
「人間てのは、慣れるもんだよなぁ」
 手のひらをじっと見る。土にまみれ、マメだらけになったその部分は、およそ自分のものとは思えない。
「弥生のお腹も、大きくなってきたな」
 ふいに手を伸ばしかけて、止めた。たわしでよく擦りあげたとはいえ、染み込むように汚れが残っている手だ。その、新しい生命が息づく場所に触れるのを、ためらってしまう。
「いいよ、触ってみて」
 その手を優しくつかみ、弥生はお腹へと導いた。
「………」
 とくとくとく……。生命が時を刻んでいる。間違いなくこの中には、弥生の子供が……自分の孫が宿っているのだ。
「お父さん?」
 思わず、郷市の頬を涙が伝っていた。それに気づいた郷市は、慌ててそれを拭う。
「へへへ……なんか、すごいよな」
「ん?」
「ついこの間まで、子供だと思ってたけどよ……弥生が、もうすぐお母さんになっちまうんだよな」
「そうだね……」
 弥生は愛おしげに、郷市の手の上に両手を重ねてみた。
わかる。生命の鼓動は、郷市の手を通じて、自分の手のひらに伝わってくる。
「どっちだろうな……男の子か、女の子か……」
 弥生は、夢心地で呟いた。その顔は、幸福に満ちている。
「………」
 郷市の中にくすぶっている迷いが、不意に顔を出した。
(郷吉に、伝えるべきかどうか……)
 身篭っているとわかった瞬間、弥生はそれを断った。彼女の中でつけたケジメが、揺らぐことを恐れたのだということは、郷市にもわかる。
 だが、赤子のことを考えれば迷いはさらに募っていく。
 生まれながらに、父のいない子になる。それは果たして、幸せなことなのか?
あれから……安堂家を出奔してから半年は過ぎている。甥の郷吉はもう学業を終え、父の言葉に従って、安堂家の家長として世に出たところだろう。
 それならば、弥生だけでも家に戻すことはできないだろうか?
郷吉のことだ。彼女のお腹に自分の子供がいるとわかれば、きっと、周囲の反対を押し切ってでも、彼女を守ろうとするだろう。だから、何度も考えた。
自分たちが食いつないでいくだけの財産やその下地はあるといえば、ある。しかし、将来的に考えると、不安ばかりが先立ってくる。


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