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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-141

「えいっ」
「おわっ」
 お得意の護身術で、勇太郎の身体を仰向けにさせた。
(な、なにごと!?)
いきなり、青空を背景にしたひとみの顔が目の前に。そして、後頭部にはなにやら柔らかいもの……。
「うふ」
 満面の笑顔でひとみ。彼女の手のひらに、優しく前髪を梳られる。
「………」
 膝枕……。なんとお約束な。しかも場所を考えなされ―――――冷静な部分の勇太郎の意識が、呟いている。
「どう? 勇太郎、気持ちいい?」
「うん……気持ち良い……」
 しかし、柔らかい部分から伝わってくる猛烈な母性に、勇太郎の意識は、感情のほとんどを掻っ攫われていた。





『………

「あらあらあら、まあまあまあ………」
 大学病院の産科医・根室が自ら“別荘”と称した住所は、街の雑踏を遠く離れた緑の豊かな場所にあった。
 丸太で組み上げた二階建ての建物があり、看板で大きく“またにてぃ道場”とある。
「“道場”……って、なんだ?」
 郷市は、つぶやいたものだ。
なんとなく途方に暮れていたふたりを見かけ、その道場からひとりの婦人が、満面に無垢な笑顔を貼りつけて駆け出してきた。小柄だが、ふくよかなご婦人である。
「ダーリンから話は聞いてるわぁ。あなたが、弥生ちゃんね? このたびは、おめでとうございます」
 深々と頭を下げてくれた。
「あ、ありがとうございます……。あの、安堂弥生といいます。よろしくお願いします」
「あらあらあら、そんなに畏まらなくてもいいのよぅ。………え〜と、そちらの方は?」
「弥生の父で、安堂郷市というモンです」
「まあまあまあ、杉本さんのご友人の“市サン”ですねぇ?」
「は、はあ……」
 なんだ、そこまで話してあるのか。昔の呼び名を、初対面であるはずの婦人から聞いたので、郷市は少しだけ面食らってしまった。
「ちょうどよかったわぁ……八坂サンが、ぎっくり腰で入院してしまったものですからぁ、男手がいなかったのですぅ……」
「………」
「これから、よろしくお願いしますねぇ、市サン」
 さあ、と二人を手招く婦人。そういえば、この人の名前を聞いていない。
「わたくしですかぁ? わたくしは、根室花江と申しますのよぉ。“花ちゃん”と、呼んでくださいねぇ」
 こうして、思いがけない弥生の“入院生活”が始まったのであった。



「お産はねぇ、いろいろ知れば、怖いことも少なくなるのよぉ」
 その日から“またにてぃ道場”に起居するようになった安堂親子。
弥生は花江から出産に関するレクチャーを受け妊婦としての生活習慣を教わりながら簡単な家事にいそしみ、郷市は、畑仕事を中心とした雑務全般を請け負っていた。
およそ肉体労働と縁のなかった郷市はそんな労働に身体を慣らすのに相当の時間を要したが、新しい命を宿している娘のために懸命に頑張った。なにしろ、住み込みで働くことが、出産の費用代わりになっていると花江から聞いているからだ。
「痛い、苦しい、これ当然。だって、命をかけて命を産むんだから。でもね、母になる瞬間の幸せは、女の人にしか与えられない、とっても暖かなものなのよぉ」
 レクチャーを受けているのは弥生だけではない。複数の妊婦が、同じように花江の話に耳を傾けている。
 絵資料を駆使した花江のレクチャーを受ける中、弥生は自分が本当に母親になるのだということを、改めて自覚していった。


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