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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-131

「吉坊、お別れだ」
 翌日……。父の郷治を港まで見送った後、叔父を尋ねた郷吉を見るなり、郷市は言い放った。
「え、そ、そんな!?」
 見れば、弥生の姿がない。
「弥生も、全てを受け入れた。俺たちが、この土地にとどまることは、お前のためにならねえ」
「ど、どうして! 父さんは、何かあったら叔父さんを頼れって、いつも言ってるんだよ!」
「いや……これから、お前が頼っていかなくちゃいけないのは、俺じゃなくて、あの泉小路宗太郎だ」
 泉小路宗太郎。温和な笑顔と丸眼鏡が浮かぶ。
「あいつはなかなかの人物だぞ。ふらふらしている俺なんかとちがってな」
「そんな! 叔父さんだって、今までこの家を守ってきてくれたじゃないか!」
 郷市は静かに首を振る。
「いいか郷吉。お前は、昨日で、安堂家の家長になったようなもんだ。当然、周りの連中もこれからはお前をその目で見ることになる。そんなお前が、ほとんど部屋住みのような俺とつるんでみろ。お前にとって、あまりいい噂はたたないし、そんな小さな綻びからでも、“家”ってのは簡単に潰れるモンなんだぜ」
 息をつき、話を続ける郷市。
「家長となったからには、お前は安堂家を守る責任がある。そのためには、あの宗太郎とパイプをしっかり繋いでおくのが第一だ………まあ、簡単に言えば、嫁さんを泣かすなってことだな」
 ふ、と郷市の顔に寂しさが浮かんだ。おそらく、弥生のことを慮っているのだろう。
「弥生のことは気にするな。あいつは、お前より5つも大人で、俺よりよっぽど頭がいいからな。事情ってヤツを、誰より飲み込んでる」
 そして、無理に作った笑顔を見せた。
「弥生のことは、忘れな」
「い、いやだよ、そんなの!」
 それが郷吉にとっては一番の問題なのだ。長い間、憧れ続けて、一度はその恋を失って、それでもなんとか想いをつなげて、深い仲になれたのに。
「ね、ねえちゃんは? ねえちゃんに逢わせてよ!!」
「ダメだ」
「ど、どうして!?」
「もう弥生とお前はなんでもないんだ。……弥生の父として、お前の叔父として、これ以上、お前らを逢わせるわけにはいかん」
 その瞬間、郷市の顔に見たこともない厳しさが見えた。
「弥生も、もう、お前とは逢わないとはっきり言っている」
「!?」
「そういうことだ。……もう帰れ」
 拒絶――――。郷吉は、足元で組み上げていた何かが、がらがらと崩れていく感覚に襲われた。
「お、叔父さん……」
「郷吉! 帰るんだ!!」
 なおも食い下がろうとする郷吉に強く言い放つと、郷市はもう何も反応してくれなくなった。


そして――――。


 郷市と弥生は、いつの間にか消えていた。まるで泡のように。古小屋の中は、綺麗に清掃され、最初から誰もいなかったような佇まいである。
 郷吉は、泣いた。その古小屋で、弥生の部屋だった空間で、大きな声をあげて泣いた。
 全てがまるで遠い夢の出来事だったように、弥生との思い出がぐるぐると頭の中を巡っていた。………』


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