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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-130

「………」
 ふと、自分を見る視線に気づく。百合子だ。
 百合子は終始、郷吉のことを見ていた。郷吉がふいに視線を向けると、やはり恥ずかしそうに俯く。しかし、伏目がちにこちらを伺ってくるその仕草は、なんとも初々しくて、愛らしい。
「………」
 そのとき、郷吉に予感が生まれた。なにか、歯車が大きな音を立てて動き出していくそんな予感が。
「宗太郎君、そろそろ……」
「そうですね」
 宴も酣になった頃、郷治は膳を下げさせた。そして、郷吉と郷市を別の間に呼び、ふたりを自分と正対するように座らせた。その後ろには、安堂家と泉小路家の関係者がやはり同じように控えている。
 父の面持ちが、厳格なものになっていた。どうやら、なにか重大なことらしい。郷吉は、珍しく身体中に緊張を覚えた。
「郷吉は、いくつになった?」
「は、はい……十八になりました」
 その厳粛さに、郷吉は言葉づかいを正したものにする。
「なかなか励んでいるそうだな。郷市から聞いている」
 え…? と隣にいる同じように、慇懃に構えた叔父を見る。その佇まいには、いつものざっくばらんな趣きは全く感じられない。
「わたしは自分の都合で家を空けることが多く、妻も早くに死なせてしまった。だから、お前には随分と寂しい思いをさせたと思っている。しかし、それを乗り越えて、立派な一個の人間に成長してくれたことを、父親として誇りに思うぞ」
「あ、ありがとうございます」
 父から受ける賛辞に、少し背中が痒い。
「そこでだ……卒業と同時に、お前を私の後継者として、泉小路君のもとで勉強をさせようと考えている」
「え?」
「彼は、私が国内に残している事業のほとんどを受け持ってくれている。学識・見識・人望ともに豊かな好人物だ」
「は、はい、それはわかります」
「まずは彼のもとで研鑚を高め、いずれは私の全てを受け継いで欲しい」
「………」
 大きな話である。いきなり突きつけられたその大きさに、さしもの郷吉も身が震えた。しかし、いずれはやってくること。郷吉は姿勢を正すと、父の申し出を受ける旨を口上で並べ立てた。
 満足したように郷治は頷き、ややあって宗太郎を呼んだ。
「宗太郎君」
「はい」
 郷吉のやや後ろのほうに控えていた宗太郎が、慇懃に頭を下げる。
「郷吉のことをよろしく頼む」
「はい。全身全霊を込めて、ご子息を預からせていただきます」
「うむ」
 満足そうに、郷治は頷く。
「それと郷吉。彼の娘……百合子君を、我が家の嫁に迎えることにした」
「!」
 もうひとつの予感が、当たった。その百合子は、宗太郎の傍で深々と頭を下げたまま郷治の言葉を聞いている。
「百合子君は、非常に聡明な女性だ。お前と共に、この安堂家を守り、盛りたててくれるだろう」
「………」
「とりあえず、お前の卒業まで式は待つ。しかし、百合子君には、来月からこの家で起居してもらうことにした」
「………」
 つまり、事実上の夫婦生活を送りなさい、というわけか。
「私は海外にいることがほとんどだ。明日からまたこの家を空けることになる。………これからは、この家の主はおまえだ、郷吉」
「………」
「郷市も、郷吉のよき相談相手になってやってくれ」
「はい」
 話の大きさは、どんどんと膨らんでいく。郷吉は、加速度をあげる運命の歯車を、もはや自分の力や意思では押しとどめられないところまで廻っていることに、いささか狼狽を感じていた。


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