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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-132

「だ、大丈夫?」
 勇太郎は、青い顔で腕に取り付くひとみを心配しながら言った。
「私……これだけは、ダメだったのよね……」
「あはは、ウチの演出や。怖かったやろ?」
「甘いでオカン、ワイはこんなのチョチョイノチョイや」
「………」
 勇太郎たちは、『ブラッドハウス』の出口にいた。
このブースはその名が示すとおり“お化け屋敷”となっており、なかのゴンドラに乗って施設内を一周する間、CGや原始的な仕掛けで客を怖がらせる仕組みとなっている。
「それにしても、勇ちゃんホンマに大きゅうなったねえ。……しかも、こんなに綺麗なコを連れてくるんやから、おばさん、びっくりやわ」
「は、はは……」
 弓子さんは、変わらないと思う。
「もっとびっくりしたんわ、ウチのアホが、可愛いガールフレンド連れてきたことやけどねぇ」
「なんやとー!!」
 兵太の反撃をさらりとかわし、後頭部をつかむ。その身のこなし、只者ではない。
「ひとみちゃん、ふたみちゃん」
 もがく兵太を小脇に抱えながら、姉妹にそれぞれ頭を下げて弓子は、
「ウチにとって、勇ちゃんは息子みたいなモンや、それと、アホでも兵太はホンマの息子や。末なごう、仲ようしたってな」
 と、嬉しそうに笑って見せた。





『………

「じゃ、行ってくる」
 郷吉が安堂家の家長となって3年が過ぎた。
「はい、お気をつけて……」
 妻の百合子が、玄関先まで迎えに出ていた。三つ指をつき、深々と頭をさげ、夫の出発を見送る。
「………」
 その玄関は、安堂家のそれではなかった。今この夫婦は、安堂家のあった城南町には住んでいない。
 いま彼は、実業界からは完全に手をひいて、とある文化系雑誌を扱う出版社に編集記者として勤務していた。
 事業から離れることになったのは、郷吉に落ち度があったからではない。むしろ、卒業後、泉小路宗太郎が持つ事業のひとつを預かった彼は、父親である郷治や岳父の宗太郎も目を見張るような活躍を見せた。
まだ二十歳にもならない青年が、政財界の大物を相手に一歩も怯まない論客ぶり。郷吉はまるで、何かに取り付かれたかのように事業にのめりこみ、実績を挙げていった。
 しかし、そんな矢先、思いがけない事態が彼を襲った。父の郷治が心筋梗塞で倒れ、そのまま不帰の人となってしまったのだ。
 残された事業は数多く、はっきりいって駆け出しに過ぎない郷吉の手には余るものだった。また、父の死が急なものであったため、引継ぎもままならない。
そこで彼は、思い切った行動にでた。安堂家の名義で行っていた数々の事業を、全て手放したのだ。
国内の事業はもともと泉小路宗太郎が管理していたから、彼に全てを譲り渡すことで落ち着いた。宗太郎は安堂家が所有していた海外の事業についても、一時預かることを申し出てくれたが、
『全てを頼ってしまうと、泉小路家が安堂家を乗っ取ったという話が出て、貴方に迷惑がかかる』
として、断った。
 それに、海外の事業は何かと手間と金がかかる。郷吉は、手に余るものについては無理に自分のものにしておくよりは、手放した方が身軽になって得策であると考えたのだ。
 結果的に安堂家の財産や収入は激減した。使用人や、給仕などにも就職先を世話した後、暇を出すことにした。
 ひょっとしたら父親の念願とは違う道を行くことになったかもしれない。だが、郷吉はそれでも構わないと思った。身に余るものを持ち続け腐らせてしまってから全てを失うよりは、新鮮なうちに切りわけていった方が食いつきも見返りもいいだろう。
 世界中に事業を持っていた安堂家はその名をいつのまにか失うことになったが、それによって郷吉は名に左右されない自由を得たと言える。
 宗太郎は、そんな郷吉の思い切りの良さにますます惚れ込み、将来的には泉小路家の後継者とすることを望んだ。
しかし、郷吉はそれをも断った。そんなことをすれば、泉小路の内部で不協和音が起こり、彼が興した家名も一代で費えると目にみえていたからだ。


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