『Twins&Lovers』-125
『あ、あのね……変な女と、思わないでね……』
『なんだい?……大丈夫だから、言ってみなよ』
『あ、うん………あ、あの……わたし……ひ、宏に……その……か、か……かん……』
佐織は、口ごもる。
『カン?』
『か……かん……ちょう……を……』
『カンチョウ?』
官庁に何の用事があるのだろう? 役所はなにかと面倒だから、あまり関わりたくないのだが。
『して……もらいたいの………』
『(してもらいたい? ……官庁……カンチョウ…………艦長?)』
船なんて持っていないし、そもそも、将来の夢に船乗りなどという項目もなかった。
『佐織、俺に海に出て欲しいの?』
『え、え、え?』
『だって、“艦長をしてもらいたい”だなんてさ』
『………』
なにか、噛みあってないらしい。佐織の絶句した様子を見れば、それはわかる。
『あの……ちがうの……その、カンチョウではなくて……』
『?』
せっかく勇気を出してお願いをしたのに肩透かし。羞恥に染まった頬は、いよいよ炎をあげそうだ。
『あ、あの……お父さんの……小説……』
『叔父さんの? ………あっ』
午後に、少し読んだものを思い出す。そういえば、やるとか言われたので持ち帰ろうと思っていたのに、すっかり忘れていた。
『―――』
たしか、宏好が再びこの家にやってきたとき、居間の卓袱台にはなにもなかった。
ふと、佐織の部屋の机をみる。……あった。茶封筒が、そこにあった。
『――…』
今度はその中身を思い出す。その冒頭にあった、描写を。
『……っ』
全てを悟った。
しかし、同時に嗜虐的な思考に襲われた宏好は、意地悪く言う。
『ごめん、もう一回、言ってくれるかな?』
『え?』
『佐織が、俺に何をして欲しいかさ……』
『………』
佐織の頬が、完全に火を噴いた。
その後、もう一度その口から“浣腸して欲しい”と言わしめ、既に佐織が近くの薬局で購入してきたという無花果状のそれを、望みどおり処方してあげた。さすがに入れる瞬間は宏好も緊張し、聞こえてしまいそうなほど動悸を激しくしていた。
しばらくして、すぐに佐織は便意を訴え額に脂汗を浮かべ始めた。なかなか、威力が強いらしい。
そんな佐織の姿に、黒い欲望が頭をもたげてはきたが、宏好は彼女を苦しめるつもりなどなかったから、排泄を懇願する佐織にそれを許した。
「え、そんな……恥ずかしい……」
ただし、自分も同行することを条件に。
さすがに佐織は排泄を見られることを嫌がり、拒絶の表情を見せはした。しかし、はっきりと聞こえる腸鳴りが生み出す荒々しい便意には逆らえなかったらしい。
「わ、わかったわ……あ、ううぅぅっ……」
羞恥よりも、便意。とにかく、その解消を願っている様子の佐織であった。
「ほら、早くしないと、間に合わないぞ」
「う、うん……」
よろめく佐織に肩を貸す。下腹を抑えて、唸る沙織を何とか階下の便所に連れてゆく。途中、立ち止まって肩を震わせるときもあったが、壊滅的な事態はなんとか免れた。
「ほら、遠慮しないで、ぶりぶりやりなよ」
「あ、やだ……そんなこと……」
汲み取り式の和式便器がある空間に、佐織を押しだす。そのまま……扉をひらいたままで、宏好は入り口に立った。
恥じらいながら便器にまたがり、しばらくは沈黙していたが、ややあって佐織の身体が震えたかと思うと、尻の間にある薄茶色の蕾がむくむくと盛り上がり、真下の真っ暗な空間に、まずは飛沫を迸らせた。
「!」
同時に、派手な放屁の音が個室に響く。声に出せない恥じらいを映すかのように、白い耳たぶがみるみるうちに朱に染まった。