〜 火曜日・尿栓 〜-2
丁寧にシリンダーから500mLを膀胱に戻し、再びクリップを外す。 『お、おしっこしますっ』といいつつも、2度目は小さな放物線だ。 排泄できる解放感に浸っていた前回と比べ、私の様子をうかがって小出しにする辺り、僅かながら成長がみられる。
半分ほど排泄したところで『それまで』というと、『んん〜〜ッ』、30番が歯を喰いしばる。 尿の勢いは急に弱まったが、しかし止まる所までは至らない。 放物線を描く代わりに膣口を濡らしただけで、タラタラと教壇を排尿で汚してしまった分、1回目よりもみっともない結果になった。
改めて尋ねる。 『言付にそむきましたね。 これで終わり?』
答えは1つしかない。 自由に発言できるとはいえ、拒否はできないことは、30番にも分かっているんだろう。 『も、もう一度チャンスをお願いします』と涙目ながら甲斐甲斐しい。 教壇にこぼれた分は29番に口で集めさせ、唾もろとも盥に戻す。 唾液の分だけ量が増え、泡だった黄色い液体をシリンダーに詰め直し、3たび注入の時間がきた。
……。
何度もピュッと弧を描き、盥とシリンダーを経て膀胱に戻る黄色い液体。
……。
合計12回。 私は出した尿を膀胱に戻してはまた、股間を拡げて排泄させ続けた。 終いには最初に飲尿した分が腎臓で濾過され膀胱に溜まりだしたのだろう、500mLを遥かに超える尿をピュッピュッと金盥にとばすようになった。 結局1度たりとも満足に尿を止めることはできなかったが、弱音を吐かない態度に免じ、注尿は12回で〆にした。 そもそも尿道を囲む平滑筋は、一日で鍛えられる筋肉ではない。
手本は見せた。 次は生徒達の番だ。 コンソールを操作し、各机に金盥と生理食塩水を追加で並べる。 先ほど飲尿したペアを再び活用する。 片方が机の上で注尿される役、もう片方が器具を扱う役だ。 尿を入れられる方が辛いように感じるが、入れる方だって相当に辛い。 痛み、膨張感、掻痒に想像が至らない分、苦痛を与える自覚が激しくなる。
今回は奇数が『尿道を責める側』、偶数が『尿道を責められる側』になった。 手際よくロッドを挿入するペア。 手許が震え、腰が揺れ、悲鳴があがるペア。 想像を超えて抽入される液体の量に白目を剥くペア。 クリップを外すなりとんでもない量を排泄し、金盥を超えて相手の顔に尿をぶちまけるペア。 どのペアをとってみても、放尿を意識して止められるペアはいなかったが、一度や二度で終わりにするつもりはない。 私が『よし』というまで、何度でも放尿を繰り返してもらう。
キーン、コーン、カーン、コーン。
午前中の1コマ分は、こうして尿道の訓練に当てた。
1限終了のチャイムが鳴るころには、忌避すべき自分たちの排泄物を、真剣そのものの顔つきで実験試薬であるかのように見つめ、丁寧に扱う裸の集団ができていた。
……。
休み時間の過ごし方も、担任が教えておく必要がある中の1つだ。 チャイムと同時に、教壇上で呆けている30番を含め、着席させる。 22番が号令をかけ、ありがとうございましたの唱和が区切りになる。
「これより10分間の休憩です。 ただし、休憩とは休む時間では決してない。 次の時間に備え、体調とその他準備を整えるための時間です。 通常であれば手洗いに行っても構いませんが、次限もここ教室で尿を扱いますから、この休憩時間の手洗い使用は禁止。 5分前には着席するよう心掛け、有効に時間を使いなさい。 ではまた、10分後に会いましょう」
慣れてくれば、この休憩時間に他クラスを偵察したり、クラスメイト同士で話し合ったり、図書室で本を借りたり、保健室で加療を受けたり、各種委員の仕事をしたり、様々なことができる。 しかし、何をしていいのか、またはしていけないのかが不明な現状では、せいぜいトイレと次の準備くらいしかできないだろう。 級友と喋り始めるのも、おそらくはBグループの先輩が話している様子を見てからだろうし、この1週間は無言なはずだ。
とはいえ、教員たる私に見られているのと、そうでないのでは緊張感が全く違う。 私がいない時間があるというだけで、今の彼女たちには貴重な時間だ。 実のところ私にとっても、生徒の視線を感じずに思索できる点において、休憩時間は有難い。
ガラガラ、ピシャリ。
「ふうっ……」
背中に感じ続けた刺すような視線がリノリウム製のドアに遮られ、私は無意識に溜まった息を吐いていた。 人気がない職員室に戻り、紅茶の一杯でも嗜むとしよう。
……。
キーン、コーン、カーン、コーン。
あっという間に休憩時間の終わりを告げる、無機質な鐘。 それでも気持ちを締め直すには十分な時間だ。 ちょうどチャイムが終わると同時に、私は教室のドアをくぐった。 全員足を広げた姿勢で着席していた。 驚きはしない。 監視カメラで5分前に全員着席する様子を確認済みだ。
結局休み時間に教室をでたものはいなかった。 モジモジと太腿を擦る生徒も数人いたが、おそらく手洗いに行きたかったのだろう、特に何かするわけでもない。 行くなと言われたうえでトイレにいった生徒がいれば、それはそれで面白いのだけれど。