まことの筥-2
脚を伸ばして座った時平に跨った唐崎は、単衣の袷を割って屹立する肉茎に舌を這わせていた。唐崎が度々艶目を向けてきて、それは明らかに誘ってきていたから、伽が居らぬ日に気まぐれに閨に誘ってみたら、彼女はこれまで味わったことのない技巧で時平を愉しませてくれた。深窓の姫君はもちろん、色に小慣れた女房であっても、男のその場所を口に含み、舌で性愛の経穴を突つくなどという大胆なことをしてくれる女などいない。だがじっとりと濡らされた唇が嚢をはみ、中の李を転がして時平の鼻息を荒くさせたかと思うと、舌は幹を遡って最後は先の小さな孔まで穿ってくれる。あれほどの貧窮した屋敷に務めていたにもかかわらず妙に肉付きがよく、おそらくは時平と同じ歳の頃とおぼしきこの女が、どんな男と遍歴を持ってきたかは分からない。だが女としての盛りは過ぎてもとにかく性戯にすぐれていて、口で愛するだけではない、このあと待っていれば自ら時平の肉茎に跨がり、媚壺を搾り上げながら畢竟へと導いてくれるのだ。
文をやって口説き、会いに行って口説き、ようよう女の寝所に入れたかと思えば震えている女の耳元で優しい言葉をかけつつ衣を解いて、固く閉ざした体を開かせてやっと己の情欲を満たすことができる。ただ妻とすればいいというわけではない、そこに至る次第こそが色事の愉しみではあるのだが、時平はしばしば面倒に思うことがあった。この唐崎は何が起ころうとも自分の妻になるべくもなく、ただ性愛のために他の女たちが到底行わぬことを率先してやってくれる。自分はただそれに溺れていればよい。藤原筆頭ともなれば昼は政務に疲れ、女に阿りながら抱くことが億劫になる夜があった時平は愁憂からの逃避を求めて唐崎を度々閨に呼んだ。
伽を勤めるようになってすぐは、その淫りがわしく潤う蜜壺で時平の肉茎を搾り上げながら、幾分芝居の入った喘ぎの中で「姫君のこと、何卒よしなに」と、唐崎のほうが何度も姫君を頼んでいた。しかし蕩けそうな悦美でそう繰り返されて刷り込みになってしまったのか、親としての自覚で娘への憐情を持ち始めると、やがて時平の方が唐崎に頼むようになっていた。
「……あの見目では、どんな男であれ好かれるはずもない」
主君とはいえ、唐崎も姫君の姿がいかばかりかはよく分かっていたから、喘ぎながらもしっかりと頷いた。「婿を取ったところで、……続くことはないだろう」
唐崎の股座に食い取られそうなほどに幹を引かれ、力が抜かれると同時に熱く融ける肉壁に擦られ、時平は息を乱して肉の張った唐崎の腰を掴み、降りてくる下腹へ根元まで深く穿ち入れた。もしかしたら唐崎は欲情とは関係なく奥から蜜を滴らせることができるのか、ちょうど時平の頭の先が奥蓋を押し上げると同時に、男の心を擽るような声を漏れ聞かせて傘に新たな熱い蜜を降らせてくれる。
「承っております、殿……」
「そなたの、この技をな? どうか姫君に伝授せしめてくれ……」
「はい、もちろん。すべて」
時平は考えた。どんな男であっても初夜の閨から逃げ出すような不様なことはしでかさないであろう。今自分がこうして唐崎に溺れているように、初めての目合いで虜にしてしまえばよい。悍ましい性戯を駆使するとはいっても、妻とした大臣家の姫がそれをはたらくこと、そしてそれに惑溺して貪っていることを言い回る恥知らずは居るまい。
さてこの本院にしばしば足を運ぶ男がいた。姫君の噂が世に流れてからは、この男の他にも屋敷の周りをうろつく影が増えたのだが、この男は噂が立つ前から己の存在を中の者に知らしめようと生垣や木々の間からこれみよがしに姿を垣間見せていた。