まことの筥-10
「おお、そうでしょうなぁ。あなたほどの方なら男は放っておきますまい。……しかし、あなたさまのようなお方でも、なされますか。おお、いったいあなたと目合わえる男とはどんな……」
侍従の一言を聞いて妄りに感動を漏らした岩瀬が唐崎に叱られ、鋭敏になっている鈴口の先に爪を立てられた。岩瀬は絶妙な擽痛に震える鼻息を漏らして口を噤んだ。
「そう。こんな汚らしいこと、あなたみたいな綺麗な人でもするのね」
どんな男がこの侍従へ汚らしい営みを持ちかけ、彼女は受け入れたのだろう。姫君は岩瀬と同じ感慨を持ち、彼女がこれまで閨をともにしてきた男たちに激しい嫉妬を覚えた。
「――ね」
憤怒の濁声に変わった姫君に再び声をかけられ、侍従は凶兆を察知して身を起こした。「見せて? 見てみたい」
「……!」
姫君の言葉が予感した通りであると知ると、侍従は慌てて首を振った。これまで何につけても泰然としていた侍従がかくもか弱く怯え、恐怖を顕らさまにした様子を見せると、姫君に燃え上がった炎は容易くは消せなくなった。
「お、お許しを……!」
壁際に控えていた二人の女房が腰を上げたのを見て、侍従が思わず居座まで崩してしまって、懸け金の下ろされた出口へ身を向けようとすると、女房たちは足早に彼女との距離を詰めて左右から彼女の脇を取った。二人とも瞳は充血して、残忍な顔をしていた。少し笑っているようにも見える。普段から嫌っていた侍従が怯えている姿は、彼女たちの卑屈を消し去って嗜虐に駆り立てていた。腕を取って姫君の前まで引きずって放り、手を付いて不様に転がるのを防いだ彼女を抑えにかかった。一人が腰帯を解くと、もう一人が荒々しく袴が引き下ろし、彼女の白い肌が開かれていく。
「い、いやですっ! ……ひ、姫様っ!!」
末期のような悲鳴を上げた侍従だったが、二人掛かりで肩を押されると、床に這い蹲り、しかし尻は高々と上げられて姫君に向けられてしまった。
(きれい……)
姫君は脇息を身の前に持ってくると、両肘をついてまじまじと見入った。思いの外ふくよかな侍従の脚を遡っていくと、左右より遭った付け根の合間に葎毛が生いている。二人の女房が両側の畝を指で抑え、息を合わせて開くと、茂みの中から花色をした艶やかな肉がはみ出した。唐崎には悪いが、色味といい佇まいといい、侍従のほうが断然可憐だった。
「うう……、お許しを。お許しを……」
侍従のすすり泣きにうっとりとなった姫君だったが、
(……でも、本当に?)
この場所を不浄の肉欲で犯した男がいる。こんな可憐で、手荒く扱えば壊れそうなのに、いつも唐崎に見せられるような事を為すなんてできるものだろうか。
「なんという格好を……おお。俺も見とうございまする。おお、唐崎さま……何卒」
「これ。勝手なことをするな」
相変わらず唐崎に幹を制されている岩瀬から侍従の背後は見えなかったが、床に頬をついて涙を流している泣き顔は見えた。唐崎の指が心地良すぎて振り払うことはできないが、美しい女房の屈辱の姿、その掲げた臀肉の中心が見たくて、何とか近づこうと肩でにじり寄っていく。
「……この人でもできる?」
姫君は近づいてくる岩瀬に一瞥をくれて言った。侍従の園は可憐ではあったが、咲き様は唐崎と変わらない。美しい女ならばもっと別の何かが――そう、あの平中が袴の中に備えているかもしれない麗しい何かと密合するに値する物を、彼女ならば備えていると思っていた。姫君はいささか失望し、
「は?」
「女ならば誰でも、って言ったでしょ? なら、この人も――」
姫君は唐崎が握っている竿にぶら下がっている岩瀬を見て、「できるんでしょ?」