体感! 巨砲主義-3
その晩、鈴木はいつになく調子がよく、挿入してから十五分以上も頑張っていた。ひょっとすると密かに「あ○ひげ薬局の早漏防止ぬり薬」をペニスに塗っていたのかもしれなかったが、詮索しないのがエチケット。大きめ肉竿を存分に堪能し、いつにない数のアクメを味わった末、ベッドにクタッと横たわり、トロリとした笑みを浮かべた女の耳元へ、上機嫌の鈴木が囁いた。
「幸せそうだな……。もっと幸せになることを言ってあげようか」
夏蓮は「なあに?」と言おうとしたが、声にならなかった。
「……そのうち、おまえ、艦に乗れるかもしれないよ」
房事の後の気だるさに包まれていた夏蓮だったが、むくっと上体を起こした。
「艦に乗れるの? 本当に?」
アクメのせいで幾分腫れぼったくなっている目に輝きが宿った。
「すぐ艦勤務になるわけじゃないけど……、ひとつのミッションをクリアすれば、総務課から抜け出せるかも……」
「ミッション? ……どういうこと?」
鈴木の語った内容はこうだった。
来週、陸奥湾にて海上自衛隊と米海軍共同の日米共同機雷戦訓練及び掃海特別訓練が行われる。その際、米海軍掃海艦センチュリーが大湊基地に寄港するが、米兵への通訳を担う人員として夏蓮の名が上がっている。アメリカ軍のお偉いさんと海自のお偉いさんとの橋渡しをうまくこなせば、通訳兼船務士として護衛艦の常勤になれるかもしれない。
「でも、米軍との共同訓練という重要なケースだから、古参の通訳の方のほうが……」
夏蓮は尻込みした。
「大湊基地には英検1級の資格を持った隊員もいるが、夏蓮、おまえのほうが生きた英語を話すだろう」
「米軍のお偉いさんの通訳というと歓迎会や演習の打ち上げ宴会に同席するんでしょう? ……私は演習の最中、緊迫した状況で活躍したいのに……」
「だから、艦勤務の取っかかりとして今度の通訳をやれって言うんだ。……日本とアメリカは今後ますます緊密な協力が必要になる。バイリンガルのおまえが洋上で活躍する日がきっと来るはずさ。しかし……」
「なあに?」
「艦に乗れば、そのうち、危険な海域に派遣されることもありうるぞ」
「危険?」
「殉職することだってある……」
「……政府高官は、そんなことないって言ってたでしょ」
「それはおまえ……、たてまえだよ」
「ふふ、そうね。でも、殉職するのは警察官や消防士の場合だってあるわけでしょう?」
「彼らと俺たち自衛官とでは危険に晒される度合いが違うじゃないか」
「そうだけど……やっぱり私、艦に乗ってみたい。……そりゃあ危険な目に遭うのは恐いし、家族だって心配してる。でも、一度でいいから洋上で活躍してみたいの。(本当にやばくなったら辞めればいいしね、自衛隊を)」
「男勝りだなあ、夏蓮は。(どうせ、いざとなったら自衛隊を辞めるつもりだろう。でも、これからはそう簡単には辞められなくなるかもしれないぜ……)」
「男勝り?」
「ああ、そうだよ。……セックスでも時々、男勝りなところが出るじゃないか」
「え?」
「騎乗位が好きで、奔放に腰を振るところとか」
「……ばか」
「へへへ。……まあ、共同訓練の前に正式に通訳係の通達があるはずだから、その時は、せいぜい頑張るんだぞ」
ポンッと尻を軽く叩かれ、夏蓮の中に「やってみよう」という気がおこった。
米海軍掃海艦センチュリーの艦長はブラッドリー大佐といって恰幅のよい50代の白人で、ジェスチャーが大きく饒舌だった。艦上レセプション(歓迎会)の席で夏蓮は大佐と身体をくっつけるようにして通訳をこなしたが、外人特有の体臭が彼女を悩ませた。ともすれば鼻をつまみそうになる夏蓮とは逆に、大佐はアジアン・ビューティーの通訳にご満悦で、しまいには彼女の腰に手を回す始末だった。
艦長のそばには常に副長がいたが、彼はジャマール中佐といって筋肉質の黒人だった。ブラッドリー大佐とは対照的に寡黙で、手を後ろに組み胸を反らす姿勢を崩すことがなかった。
歓迎会は夜8時にはお開きとなったが、ブラッドリー大佐は夏蓮をいたく気に入り、艦長私室まで同行させようとした。慌てた自衛隊幹部が丁重に断りの言葉を並べ立て、それを夏蓮が通訳するという妙な場面になったが、その場は何とか収まり、夏蓮が体臭のきつい外人に拉致されるということはなかった。
ところが翌日、一日目の演習が終わった後、またもや歓迎会(今度は大湊基地内での歓迎レセプション)があり、夏蓮は再度、ブラッドリー大佐の隣に侍(はべ)ることとなった。
大佐は酔いが回ると、昔の戦艦マニアであることを語りだし、イギリス海軍の「ドレッドノート」を賞賛し、「大和」や「ビスマルク」など敵国だった日独の軍艦をも褒め称えた。
「特に大和。あの46センチ砲の偉容はアメリカの戦艦アイオワをも上回った」
などと大声で言って、なおもマニアぶりを披露し続けたので、しまいには副官のジャマール中佐に止められたりしていた。
宴が終わり、基地外宿泊の米兵士官たちはホテルへ向かうこととなったが、この夜のブラッドリー大佐は夏蓮に執着することなく、さっさと送迎のタクシーの中へと消えた。安心した夏蓮は宴会場の後片づけを手伝った後、帰宅しようと基地の駐輪場へ向かった。
そこは外灯が少なく暗いため、自転車の解錠に苦労するのが常だった。その夜も手間取るなあと思いながらキーを差し込んでいると、背後で人の気配がした。振り向くと、暗闇の中に、より黒々とした二つの影があり、その一つが言葉を発した。
「Sorry……」
英語だった。夏蓮がその言葉の続きを聞くことはなかった。腹部に強烈なショックを覚え意識が途絶えてしまったからである。