〜 個室(33番) 〜-5
私の返事に満足したのだろうか。 先輩はヒュッと鞭をふり、束ねたものを一瞬でほどいた。
「まあいいわ。 ビンタの代わりはいくらでもあるもの。 鞭で躾けてあげるから、ついでに『鞭への御礼』も教えてあげる。 まだ学園では教わってないでしょう」
躾? 御礼? 意味が分からない。
こういう時、22番は即座に返事をしていたように覚えている。 だったら私だって同じことだ。
「は、はいっ。 ありがとうございます、宜しくお願いしますっ」
「いい返事よ。 鞭をもらったら、まず何発目なのか自分でカウントするの。 次に自分の源氏名と、鞭で打たれた箇所を大きな声で告げて、感謝の言葉で締めなさい。 本当は源氏名じゃなくて番号なんだろうけど、この部屋の中じゃ私も貴方も33番で、ややこしいったらありゃしない。 まあ簡単よ。 できるでしょ?」
ヒュッ。 黒い鞭がしなる。
「はいっ!」
深く考えもせず、条件反射で答える私。 そして笑顔で頷く先輩。
「あとは表現ね。 ワンパターンだと躾けてあげる方が飽きてきちゃうから、毎回違ったパターンで御礼を考えておかなきゃダメよ。 例えば『ひとつ。 けいこの変態おっぱいです。 ありがとうございます』みたいな感じかな。 今日は初日だし、特別に20発で勘弁してあげる。 嬉しい?」
「はい! 嬉しいです!」
思考とは裏腹に、口からは勝手に御礼の言葉がでた。
20発も……目の前が真っ暗になる。 既に身体がグラグラしているというのに、更に20発も直立したままぶたれろというのか。
「声が小さかったり、態度が悪かったり、つまんなかったりしたら、当然指導にカウントしないから、ビッチリ気合をいれなさい」
「は……はいっ!」
頭の中で先輩の言葉がぐるぐる回る。 鞭で打たれる場所は毎回違うの? 御礼もその度にアレンジするの? あんなに痛いのに、耐えるだけじゃなくて応答まで考えなくちゃいけないの? 『ひとつ。 けいこの変態おっぱいです。 ありがとうございます』なんて情けない返事を、その都度叫ばないといけないの?
答えは『YES』に決まっていた。 ここは学園の寮なのだから。
「いくわよお。 そらっ!」
ピシッ。 左脇腹に激痛が走った。 思わず目を閉じ、痛む部分を庇うように身を捩る。
けれどそうやってはいられない。
「うぐっ。 ひ、ひとつっ、けいこのお腹です、ありがとうございますっ」
「声が小さいわ、笑顔がないわ、身体が動くわ、つまらないわ、情けないわだらしないわナメんのも大概にしなさいっ! ノーカウントッ、もっかい最初からっ!」
ビッシィッ!
「がっ……か、かは……!」
左乳房に、これまでの鞭と段違いの衝撃が届いた。 束の間意識が遠ざかる。
これまでの、単に皮膚が熱い痛みじゃない。 皮膚の下で肉が弾けたような、ずしっと喰い込む感覚。 これは本当に鞭なのか? 茨をまいた丸太で殴られたんじゃないのか? 今までの鞭とはまるで別物だ。
「くっ、くぁ、あっ、あ……」
息ができない。
もしかして、先輩が納得する答えができなかったら、その度にこんな衝撃がくる?
当然だ。 このまま何もできなければ、おそらくもう一度この鞭がくる。 しかも衝撃はどんどん強くなるだろう。 そうなってはもう未来の可能性は皆無だ。 今しかない。 事態を前に進めるには、無理でも何でも、今ここで先輩の指示を全うする以外に道はない。
膝を震わせ、崩れ落ちそうになりながら、か細い呼気の下で正面をむく。 満面の笑顔で、シャンと背筋を伸ばしたつもりで、あらんかぎりの息を搾って私は叫んだ。
「ひっ、ひとおつ! けいこの変態ミルクタンクでえす! ありがとうございまあす!」
「ギリでセーフ。 次ッ!」
ピシッ。 間髪入れずに空気が撓(しな)る。
「あう……っ」
一番初めに脇腹に感じた痛みだった。 これなら、すっごく痛いけれど、それだけだ。 気持ちさえしっかり持てばあと19発、耐えられるかもしれない。 声量はなんとかなる。 笑顔も、涙と鼻血以外は保ってみせる。 表現は、学園で強制された情けなくてミジメな言葉を総動員するしかない。 姿勢は、とにかく気力で痛みに耐える。
頭の中は、ひたすら先輩が赦してくれることへの祈りでいっぱいだった。
「ふたあつ! けいこのブリブリ腹でえす! ありがとうございますっ!」
ビシッ。
「みっつっ! けいこのフル勃起乳首でえす! ありがとうございますっ!」
「よっつっ! けいこのビッチリおケツでえす! ありがとうございますっ!」
「いつつっ! け、けいこのツルまん土手でえす! ありがとうございますっ!」
「いぐっ……む、むっつっ! けいこのくっさいケツマンコでえす! ありがとうございますっ!」
「な、ななつぅ! けっけいこの変態、ち、チツマンコですっ! ありがとうございますっ!」
……。
時折悲鳴を抑えきれず、姿勢が崩れることもあった。 それでも私は最初の1発を除く連続20発の鞭に、涙と鼻水にまみれた笑顔で御礼を言い続けた。 鞭の嵐がやんで、床に落ちた鼻血と涙を『掃除』と称して啜らされながら。 全身に熱が籠り、玉のような汗をかきながら舌ですくった赤い液体は、やっぱり鉄の味だった。