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悪徳の性へ 
【学園物 官能小説】

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〜 個室(33番) 〜-4

 「おい、恵子」

「……っ!」

 時折見せた笑顔ではなかった。 こめかみに血管が薄く浮いて、瞳が米粒大に小さくなって、口許からは犬歯が覗く。 怒りを剥きだしにした動物の顔だ。

「最初に大人しく尋ねてやればつけあがっちゃってさあ。 何? Aの先輩が怖いから、あたしのいうことも聞いておこうってわけ? Bの先輩はどってことないけど、Aはヤバいとか、いきなり打算で動いちゃうんだ?」

 パァン。

「いぐっ……!」

 部屋に入った時に頬を張られた時より、段違いに強烈なビンタ。 鼻の奥どころか、頭の芯がチカッとするも、すぐに正面に顔をむける。

「すい、すいませんっ!」

「あたしとしては、そういうのが一番ムカつくんだけど。 黙ってあたしの言うこと聞けないなら、もうなんにも教えてあげないよ? 自分の立場わかってんの、ねえ」

「あのっ、す、すいませんでした」

「歯を喰いしばりなさい」

「は、はい!」

 パァン。 顔を正面に向けるなり、反対側に張られた。 私もすぐに顔をただす。

「返事!」

「すいませんでしたぁっ!」

「違う違う。 あのね、これはあたしなりの指導よ。 こういう時は謝るべきかって、考えても分かんないの? 真正バカなの?」

 パァン、パァン。 

「あうっ、あぐっ……」

 間髪入れずに脳ごと平手で揺すられる。
 一瞬だけ脳裏に今日のことがよぎった。 行進や体操の指導を受けているとき、常に胸をはって、意味不明な8号教官に返答し続けた22番……彼女は確かに喚きっぱなしだったけれど、今から思えば的確に言葉を紡いでいた。 22番だったら、今の私の立場で、どんな風に答えるだろう? 物怖じせず、黙って逃げだすこともなく、相手の言うことにちゃんと答えた22番なら……。

「あっあの……あ、ありがとうございます!」

「端(はな)からそういっとけよ。 愚図っ」

 バシィン。
 
「あぎっ……!」

 先輩の左手。 幾重にも束ねた鞭が頬にはじけた。 物凄い音に驚いたが、痛み自体は平手と左程変わらない。 ぶたれる度に仰け反っている場合じゃない。 結果として次の打擲を待つためだとしても、即座に顔を正面に戻す。

「ありがとうございます!」

 ツー。 鼻の下に生暖かい感触がした。 唇に饐えた鉄の味がした。 
 血だ。 頬から鼻先にかすめた鞭が、踏みつけられ、豚鼻にされた粘膜の堰をきったらしい。

「あーあーあ、馬っ鹿みたい。 鼻血なんか垂らしちゃって」

「も、申し訳ありません……!」

「これじゃ汚くって顔に触る気も失せる。 せっかくあと100発くらいビンタをあげようと思ってたのに……トコトンあたしに逆らう気なんだ」

「うぅぅ……だって……」

「まさか口ごたえする気じゃ――」

 バシィン。 スナップが利いた鞭の束。

「あっぐっ」

「――ないでしょうねっ」

 パシィン。 小気味よく顎から頬にかけて小気味よく弾ける。

「つぅっ! も、申し訳ありません! せ、せっかく指導をいただいているのに、な、情けない鼻血なんか垂らしてごめんなさい! ご指導ありがとうございますっ」

 私の意思が及ばない、物理的な現象ですら難癖の対象になる。 すべて私が謝って卑下しなければ、事態は前に進まない。 22番もグラウンドで、不条理な理由で頭を下げ続けていた。 




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