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悪徳の性へ 
【学園物 官能小説】

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〜 個室(29番) 〜-1

〜 個室・29番 〜



 入寮時から新入生を監督していた副寮長、B29番。 食堂からずっと、私――学園に入る前は『里奈』、学園では29番と呼ばれている――は副寮長の筋肉質でカッチリした背中だけを追いかけた。 寮長や先輩たちの言葉の端々から、副寮長が私の命運を握っていると感じたし、何よりも副寮長から微かな温もりを感じたからだ。 言葉遣いは乱暴だし、殊更優しくしてくれたなんてことはないけれど、暖かく感じた私自身の直感を信じる。

 食堂をでて、廊下を抜けて『コの字』の建物の下辺を進む。 両側に『1号室』『2号室』『3号室』…と部屋が並んでいる。 突き当りの階段を登ると、2Fは『11号室』『12号室』と続き、3Fは『21号室』『22号室』と20番台が占めていた。 3Fの階段に近い部屋にプレート『29号室』がかかっていて、副寮長がドアに触れる。 カギを指してもいないのに、ガチャリとノブが鳴る。 副寮長がドアを開いて中に入り、私も続いた。

 殺風景な部屋だ。 8畳1間に置かれた家具は、学習机と本棚が1つ、備えつけのベッドに中くらいの衣装棚が1つ。 壁には時計がかかり、天井にはエアコンと蛍光灯が据えられ、柔らかい明かりが部屋全体を照らしている。 ガラス扉の先には小さなベランダがあり、学習机の上の窓と併せ、夜空を眺めるには事欠かない。 食堂と同様に壁紙は白で統一され、整頓された室内と相俟って清潔な空気を醸している。

 ドサッ。 一つきりの椅子に腰かけると、副寮長――これからは敬意をこめて、先輩と呼ぼう――が床を指さした。

「そこに正座なさい」

「は、はい」

 言われたとおり膝を折る私。 副寮長が椅子に座って組んだ足の隙間の奥に、無毛の土手が覗いているが、先輩には隠そうとする素振りはない。 ずっとリノリウム張りやタイル張りの床だったため、植物繊維が肌に新鮮で、正座させられているというのに、何故か身体が軽く思われた。

 寮生の部屋と思しき個室に2人きり。 これから私はどうなるのだろう? 
 入寮時には、私物を返して貰えるとおもいきや、抗議する間もなく処分された。
 食堂では、ようやく夕食にありつくことができると思った矢先に、先輩の膣越しに啜らされた。 しかも自己紹介の名目で、到底不可能な目標を宣誓させられた。 私の場合は『垂直1メートルまで小便の噴水を飛ばせるようになります』と、とにかく大声で皆に叫んだ。
 
 今度はどうか?
 1対1でしごかれるのだろうか。 殴られるのだろうか。 蹴られるのだろうか。 無茶なことを命令されるのだろうか。 厭らしいことや、悔しいこと、恥ずかしいことをさせられるのだろうか。
 唇をキッと結んで先輩の動向を伺う。  

「今が8時40分。 9時から入浴だから、8時55分には部屋をでる。 それまで15分あるから、寮のルールをいくつか覚えなさい」

「えっ?」

「何度も教える時間はないから、1回で記憶して。 私のためじゃなく、君自身のために、人の話はいつでも全身で集中しろ。 返事は『はい』だ。 私と2人きりな間は一々変態ぶらなくても構わないから、とにかくちゃんと返事するんだ」

「は、はいっ」

「返事はそれでいい。 じゃ、まずは寮で覚えておくべき人のことからいくぞ」 

 案に反し、口を開いた先輩が紡いだ言葉は、簡潔で無茶とは程遠いものだった。 驚いて目をパチクリさせて見上げる私と対照的に、見下ろす先輩は冷静そのものだ。
 『私をぶったりしないんですか』『私に怖くしないんですか』と尋ねたい気持ちを抑える。 この先輩は、いままで私が接した目上の人・2号教官や寮長とは感じが違う。 疑問は山のようにあるけれど、ここは先輩の言葉に従おう。 私は唾を呑んで次の言葉を待った。

「寮で一番偉いのは寮監の9号教官になる。 新入生は、とりあえず『寮監様』と呼べばいい。 9号教官はずっとこの寮を仕切っていて、厳しい人だ。 寮生を家具にするのが好きで、椅子やら燭台やら、兎に角いろいろ家具になれって言いつけてくる。 何を言われても逆らわず、耐えろ。 どんな家具でも置物でも、2時間もすれば赦してくれるから」

「はいっ」

「二番目に偉いのが寮長。 寮長も『寮長様』が無難だ。 いつも微笑んでいるけど、優しいわけじゃ全然ない。 かといって無茶なことは言わないし、君の身分が学園の底辺だと自覚して行動すれば、それなりの指導で手を打ってくれると思う。 寮監と同じで、絶対に逆らってはダメだ」

「はいっ」

「三番目はAグループ生だ。 寮の最上級生で、卒業を控えた学年は、寮長を含めて5人いる。 この5人から用事や指導を受けたら直ぐに従うこと。 A1番とA2番はねちっこいから、なるべく関わらない方がいい。 逆にA3番とA5番は下の学年に関心が薄いから、話をしなくちゃいけない時はこっちの方がいい。 話すときは『A1様』みたいに、『様』づけだ」

「はいっ」

 先輩が話してくれる内容は、最上級生だとか、Aグループだとか、半分以上分からない。 それでも私にとって大切なことを伝えてくれているのは分かる。 学園に入学してから、脚色なく意味がある情報を、直接言葉で教えて貰ったのは初めてではないだろうか。 例えそれが、どんなに些細なことだったとしても、だ。 俄かには信じられないけれど、先輩は、明らかに私を人間として扱っている。



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