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たぎる
【その他 官能小説】

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たぎる-9

(9)


 紗枝の修学旅行が近付くにつれ、不思議な心境になっていくのを木綿子は感じていた。
当然のことながら正彦と2人きりになる『その日』に向かって昂奮は地熱を蓄えるように高まってきている。その時、どんな行動をとるか、何をするか、あえて考えないようにしていた。だから膨らむ想いが彷徨うようにむらむらと拡がっていく。

 一方、妙な落ち着きが影のように歩いている。
(紗枝……)
この子がいなくなる。
 わずか1週間足らずではあるが、この家からいなくなる。それだけのことが小さな安息をもたらしていた。
(その間、正彦はあたしの独り占め……)

 紗枝の体に視線を向けることが多くなった。もう長いこと娘の裸を見ていない。
(最後に一緒にお風呂に入ったのは、12歳だったか……)
初潮があって、少しした頃だ。大人になっていく色々なことを話して聞かせた覚えがある。ありきたりの内容ではあったが。……乳房はまだ膨らみかけ、体は肩や背中が骨ばっていて幼い女の原型をみせていた。
 その夜、木綿子が誘って2人で布団を並べたのだった。これから大人になっていく娘に遠い昔の自分を重ね、愛しさが胸に満ちていた。紗枝も女としての体の変化に不安を覚えていたにちがいない。母親のそばで安らかな寝顔をみせていた。

 18歳になった体は細身ではあるが、くびれた腰から膨らんだ尻はもう大人だ。歩く時、制服のスカートを左右に揺らす動きは、自然であるにもかかわらず、男の目を惹くように柔肉は揺れる。そのように女は作られているのかもしれない。
(正彦のペニスを咥え込み、この腰を煽っているのか……)

 2人のセックスを盗み聴くことは1度でやめた。それはとても苦しいことだったからだ。想像することも辛いことだったけれど、生のやり取りと愛撫を交わしている間近の気配は気がおかしくなってしまいそうだった。

「紗枝、今夜一緒に寝ようか」
風呂から上がってテレビを観ている娘に声をかけたのは自分でも深く考えてのことではなかった。だがひとつに思惑はあった。
 旅行の前日である。5日間会えないのだ。
(今夜あたり、するかもしれない……)
阻止したい想いがあった。
(そうすれば、正彦の興奮も一段と高まる)
  
 ふと口をついた言葉。……紗枝はきょとんとした顔を向けたあと、
「なあに、急に」
含むような笑いを湛えていた。
「明日からしばらく会えないし」
「なにいってるの。修学旅行じゃない」
声をあげて笑った。
「そうだけどね。ずいぶん大きくなったなって思って」
「変なの」
「母親ってね、娘の成長に時々とても嬉しくなるのよ」
「ふぅーん」
さして気にとめない紗枝に木綿子は笑わずに続けた。
「ねえ、たまにはいいでしょう。お母さん、淋しいのよ。お願い」
「なんだか子供みたい」
「子供が大きくなるとその分、親は子供に戻っていくのかもしれないわね」
「そんなことあるの?」
「わからないけど、子供の頃のこと、思い出すのよ」
紗枝は首をかしげながら、
「別に、いいよ」
意外とあっさりと承知した。

(セックスするつもりじゃなかったのかしら)
やんわりとはぐらかして結局拒絶してくると予想していたのである。
(もしかしたらゆうべ済ませているのかもしれない……)
 
「もう支度は出来てるんでしょう?」
「うん。あとは、朝、洗面用具とか入れるだけ」
「じゃあ明日早いから早めに寝ましょう。遅刻したら大変」
「大丈夫よ。髪、乾かしてくる」

 布団をふたつ並べて敷き、横になると木綿子はほっと息をついた。
(明日の夜は正彦と2人きり……)
待ちに待った『その時』が訪れる。時間は5日間、たっぷりある。そう考えるだけで心が熱を帯びてくる。
(どうしようか……)
2人の状況を考えてはみるが、シチュエーションなど浮かんでこない。
 パジャマの上から股間に手を当てた。それだけで濡れてくる。このところオナニーを控えていた。

「目覚ましかけとくね」
「いつかみたいに寝坊しないでね」
「あ、危ないかな」
横になった紗枝が微笑んだ。

 昂ぶっていても明かりを落として目を閉じると眠りに落ちていく。寝つきはいいほうで、少々の地震でも目覚めることはないのだが、その夜はやはり気持ちのありようがいつもとはちがっていたのだろう。
 はっとして目が開いた。何かの気配を感じたのである。

 紗枝がドアを開け、部屋から出ようとしているところだった。
「紗枝」
びくっと体が震えたのがわかった。
「どうしたの?」
「荷物、忘れた物があって」
明らかに動揺していた。
「なに忘れたの?」
「着替えの、シャツとか……」
「明日でいいじゃない」
「……うん。トイレ行ってくる」
時計を見ると間もなく日付が変わろうとしていた。

(危なかった……)
抜け出していくとは、考えていなかった。
 紗枝の手には携帯が握られていた。メールでやり取りをしていたのだろう。いま、トイレから、行けなくなった連絡をしているだろう。

 もし気付かなければ、セックスを楽しみ、紗枝は何食わぬ顔で朝の挨拶を笑顔と共に向けたにちがいない。後ろめたさなど感じていないのだ。
(紗枝……したたかな……女……)

(正彦に、ほんとうの女を教えてやる……)
紗枝が戻ってくる足音を聴きながら木綿子は奥歯を噛みしめていた。 
  


 
 
 


 


 


 


 


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