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たぎる
【その他 官能小説】

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たぎる-8

(8)


 翌日、子供たちが出掛けると食器を洗い、洗濯をしかけて、居間に向かった。
(夫と2人きり……)
そう思ったら体が熱を帯びて抑えが利かなくなった。

「ねえ……」
夫の首に腕を絡めて耳に口づけした。
「どうした?」
「2人だけよ。何も気にせずにできるわ」
「ゆうべ2回もしただろう」
「だって、こんな機会しばらくぶりだもん」
甘えて言うと夫もその気をみせて木綿子の胸を揉んだ。
「すごい濡れてたな」
「いまだって……」
「もう?」
夫がスカートを潜って股間から指を入れた。
「あう、あなた……」
「ぐしょぐしょじゃないか」
「ううん……だから言ってるの。今夜は遅いんでしょう?」
学生時代の友人たちと飲み会なのだ。
「木綿子」
キスをしながら触れると勃起していた。
「一緒に、シャワー浴びましょう」
居間のカーテンを閉め、玄関を施錠し、いそいそと浴室に入った。
「早く来て」
着替えの用意なんかいらない。ひととき、全裸で過ごすつもりだった。
 夫を待つ熱い股間。彼を迎えるために濡れていた。だが、身も心も夫だけに溶け込もうとしていただろうか……。
(どうしようもない魔物が棲みついてしまった……)

 夫のペニスに舌を這わせながら、昂奮は妄想をがんじがらめにしていく。
(正彦は、もっと硬いにちがいない……色もきっときれい……だと思う)
肌もすべすべだろう。贅肉のない若い肉体。すらりと伸びた脚の付け根にそそりたつ幹。ほぼ真上を向いている。
(反り上がった幹の血管は青く浮き出ている)

「おい、どうした?」
夫の声に気がつくとペニスに頬ずりしていた。
「初めてだな。そんなことするの」
「あたしの大事なものだもん。来週からまた会えなくなるから」
媚びた笑いを向けながら内心慌てていた。

 夫は満たしてくれる。めくるめく快感の世界へ導いてくれる。達した体は制御できない痙攣に見舞われて、木綿子は一体感に酔いしれた。
 一体感はたしかに夫との結合。だが脳裏に染みついた若い肉体も共に木綿子を翻弄していた。

 その後、夫とセックスしたのは1度だけ、その際、十分な硬さがなく、締め上げても膣に漲る手ごたえがなかった。木綿子には快感よりも脱力感が残った。
(若い頃とはちがうんだわ……)
深刻に落ち込んだわけではないが、横溢する自分の肉欲を持て余していることが何だか惨めに思えて欲望の空白を感じていた。

 あっという間に休暇は終わって夫は赴任先に戻っていった。出掛けに玄関で抱きつき、唇を押しつけた。
「今度はいつ?」
「まだ予定が立たないな」
夫の股間を握った。
「おい」
「お別れしてるの」
まったく反応していない。
(予定も立たない、ここも立っていない)
以前ならキスをして抱き合えばむくむくと変化してきたものだ。

 木綿子の気持ちが燃え始めていたのは支度をしながら言った夫の言葉からだった。
「これ、紗枝の小遣いに足してあげて」
3万円を渡された。
「何?これ」
「来月だったか、修学旅行だっただろう?俺、その頃帰れないから」
すっかり忘れていた。木綿子はそんな素ぶりは見せず、
「ちゃんとあげるわよ」
「多い分にはいいだろう」
「じゃあ渡しておく。喜ぶわよ」

 喜んだのは木綿子のほうだった。
(気がつかなかった……)
紗枝の修学旅行、たしか5泊6日。
(正彦と2人きり……2人きりではないか!)
抑えようのない昂揚感は心を浮き立たせ、
(どうしよう……)
正彦と過ごす5日間。
何も手につかないまま歩き回るうち、喜びは次第に不安の色に染まってきた。
(あたし……どうなる?……)
自分が何をするか、定まらない思考の中で怖くなってきたのだった。
(母親……)
その意識が完全に消え去ったわけではない。狂いながらもふとよぎる『親子』の現実……。それはもはやわずかな良心の残り火であっただろうか……。
「それは、わかっている……。でも、求める生身の体の苦しさはどうにもならない……」
木綿子は声を詰まらせ、迷いを振り払った。
(突き詰めれば男と女……)
血はつながっていないのだ。むろん、親子である。法的にも社会的にも……。だからそれは保たねばならない。
 木綿子はそれを『形式的な枠』と考えることにした。その『枠』を壊すことはしない。そこを踏まえた上で、時には密かに遊んでもいいんじゃないか。そっと『枠』を抜けだして……。
 正彦と2人だけの秘密の世界……。そして愉しみ合ったらまた何事もなかったように『枠』に戻る。
 それなら、
(何も変わりはしない……人の道に外れないでしょう?)
木綿子は身勝手な設定を思い描きながら、思考の断層に気づいてはいなかった。



 
 


 


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