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悪徳の性へ 
【学園物 官能小説】

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〜 下校 〜-2

〜 下校 〜


 最初に紐姿で教室をでたのは、やはり22番でした。 思い返せば、いつでも最初に動くのは彼女のように思います。 わたくしは紐を身につけるのに手こずりまして、過半数が着替えたところでみんなに続きました。 

 下足棟で水に濡れた外靴に足をいれます。 靴にこびりついた排泄物は取り除いたものの、なんとなく残り香が漂っており、一瞬躊躇ってしまいました。 いっそ履かずに寮へゆきたいですが、それはそれでまずい気がするので、履かないわけにはいきません。
 わたくし達以外の外靴はすっかりなくなっていました。 つまり、持ち主達は下校したわけで、わたくし達のクラスが解散する以前に、他のクラスは全員校舎を後にしたようでした。

 みんな黙ったままです。 わたくしも、特に喋るなと言われたわけではないのに、辛い一日を共に過ごしたクラスメイトと言葉を交わす気にはなれません。 極度に緊張しすぎたせいでしょうか、 それとも、まだ見ぬ『寮』への不安からでしょうか、拘束する紐状の登下校服のせいでしょうか。  おそらく全てが原因ですが、誰かとうちとける程には、身体も心もほぐれていません。

 月のない夕暮れです。 しかし、学園の彼方此方で照明が焚かれ、足許を見失うようなことはありません。 照明に誘導されるように進むと、教官が仰ったように正門らしき構造物が見えてきました。 たった十数時間前にあの門を潜り――入学式までずっと目隠しされており、本当に正門から入ったかどうかは分かりません――わたくし達は学園の生徒になったわけですが、もうずっとせんのことに思えます。 学園の内実を知っていれば、合宿に参加できる喜び溢れ、嬉々として入学願書にサインすることもなかったでしょう。 2号教官に再会できた以外、正直、明るい未来は想像できません。 叶うことなら正門の外に戻りたい、と思うくらいは許して欲しいです。

 正門は外の、わたくし達が過ごした世界へ続いています。 ガードマンもいませんし、監視カメラも見当たりません。 ですが、そういうわけにはいかないのです。 わたくしは俯き、後ろ髪を引かれる想いでみんなに続きます。 

 右手に折れてしばらく進むと、それらしい建物がありました。 照明がてらす外観は、灰色のコンクリートでできた直方体が武骨に連なった『コの字』型です。 暗くてよく分かりませんが、高さから察するに三階建てはありそうです。 と、前をゆくみんなが駆け足になり、わたくしも慌てて追いかけました。 小股の紐が一際喰い込む痛みは、置いてきぼりに比べれば大したことはありません。

 走る先には、わたくしより先に教室をでたみんなが、寮の前で整列していました。 みんな登下校服を着用し、姿勢正しく列をつくっています。 列の頭上をよく見れば、建物備えつけの電光時計が18時55分を表示しており、教官がおっしゃった19時という寮の門限まで、あと5分しかありませんでした。
 
 学園寮の『門限』が具体的にどのような規定かは知りません。 わたくしがかつて暮らした施設では、門限までに食堂に揃い、点呼をとる習わしでした。 一分たりとも遅刻は許されず、もし点呼に遅れたものがいれば、全員の食事が抜かれる決まりでした。 ここは学園寮ですから、施設より一段厳しい規則があっても不思議ではありません。 
 慌てて列の最後尾につき、他のクラスメイトに倣って第一姿勢をとります。 整列している人数は、目算で20名。 後ろから走ってくる気配も含めて30名ほどは、少なくとも時間内に整列まではできるでしょう。 けれども34名――1名はどこかに連れていかれたので、寮に向かっている生徒は全員で34名――が揃うとなると……急に胸が早鐘をうちます。 
 もしも時間内に揃わなかったら? 初日で、初めての学園で地理も勝手も分からず、下校時刻ギリギリまで放課にならなかったとしても、遅刻は遅刻です。 寮とはそういう場所なのです。

 学園に本格的な夜が訪れる中、電光時計の明滅が空にくっきり浮かんでいました。


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