実行と露見-1
五月の連休前に鈴音の学校で二泊三日の林間学校があった。帰途、生徒たちは一度教室に寄ったのだが、その拍子にクララほか数人が机に荷物を忘れていった。鈴音が中を見てみると、洗面用具と、替えた下着や靴下だった。川遊びの水着を忘れた者もいた。両方を一つの袋に入れて忘れていった生徒もあった。クララの場合、置き忘れどころか確信犯なのかも知れなかったが、とにかく中は少女の汚れものだった。それまで女子の着たあとの下着を目にする機会など、男兄弟ばかりの鈴音には無かったから、その汚れかたに鈴音はいたく驚いた。しかも、忘れていった女子の下着には、一つ残らず沁みがあった。子供の頃、白いブリーフを穿いていた自分を鈴音は思い起こしてみた。黄色い沁みがよく前に残ったものだった。それでも、これほど幅広く汚れたことは記憶になかった。女子は毎回ふいている筈ではないか。中に、蝋の固まったような厚い汚れのあるものがあった。青が似合う黒髪のペトラという生徒の下着だった。黒目勝ちで笑顔も愛らしく、清楚なペトラの体からこれが出ていると思うと鈴音は堪らず鼻に押し付けて嗅いだ。それから他の生徒のものを手にとって嗅ぎ比べた。
こういう「ある境界」を越えてしまうと、そもそもの認識からが大きく変わってしまう場合がある。
まずクララの下着を精液で汚し直したあと、鈴音は思った。ここでは、自分のやりたいこと、見たいこと、知りたいことに手が届くのだと。そして鈴音の想像力は、この時を境に、かつてないほど活発に働き始めた。行動に移るのが億劫な鈴音としては、自分の軽やかさが信じがたい位であった。こうしてその日から鈴音の悪業が実際化した。
女子生徒全員の上履きとリコーダーの口にまず鈴音は射精した。健康診断表をチェックして、まだ初潮を迎えた者のいないことを知った。私立で給食のないこの学校では、生徒は弁当を持ってくるのであったが、いつか鈴音はその弁当にも射精するアイデアを蓄えていた。クラスの女子生徒は、皆すぐ鈴音の精子に体のどこかで触れる訳である。していることは縄張りを主張する動物の雄と同じだと、行為者の鈴音自身、気が付いて驚いた。
カメラの取り付けも早かった。鈴音のパソコンには、この数カ月に撮影された動画が百を超えて貯められていた。服装で誰が写っているか分かるので、編集して名前ごとに整理されてあった。何組の誰が、排便時にどういった癖を持っているのか、発毛や中の形などはどうであるか、鈴音は研究する思いで観察した。偶然写った女の教員のものは不潔に感じて全て切り捨てた。
こうした一連の行為について、鈴音はもはや罪悪感を持たなかった。慣れによる道徳感覚の麻痺だとは理解したが、これ程までに平気に行えるものだとは鈴音自身、予想外の展開であった。ふと連想したのが、高校のころ飼っていた猫の避妊手術のことだった。最初、鈴音には、避妊手術ということが、人間の立場からの勝手で残酷な行為として受け入れられなかった。しかし、一度させてしまうと、二匹目からはもう平気であった。それどころか、進んで手術を受けさせるべきだとさえ思えてくるのだった。道徳律は内側からの発露を待っているのでは駄目なのであって、やはり人間は強制される必要があるのではないかと、教育的な視点を忘れられない自分に鈴音は苦笑した。
クラス運営も仕事も、変わらず順調に運んだ。不思議なことはと言えば、女子の態度にどこか女っぽい媚びが見えるような気が時々することだった。年齢のせいなのか。以前は感じなかった雰囲気だった。常に毎日向けられる鈴音の性的な目と思いが女子生徒に感応したのだと思う時もあった。