欲望の坩堝-2
倉庫内を歩く女性を見て、伊澤尚弘(いざわ なおひろ)は思わず舌打ちをしていた。
(この女、今日も優雅に一人でシャワーかよ。)
尚弘を含め、卸業者に務める社員は、全員が寝る間も惜しんで業務を回している。それなのに、その原因を作った会社の女は、毎日この時間になると、シャワーを浴びに行く。
(そんな時間があれば、さっさとシステムを何とかしろってんだ。)
感情を抑えきれず、近くの柱を思い切り蹴飛ばす。
「おいおい、そんなことして怪我とかやめてくれよ。ただでさえ、人が欲しいんだからよ。」
声をかけてきたのは、羽田圭三(はねだ けいぞう)だった。圭三は、ここの倉庫の責任者で、今回のトラブルで一番苦労している。
そのため、システム会社に対しての恨みも相当抱えていた。
「羽田さん、もうやってらんないっすよ。いつまで続くんすかね、こんな状態。」
「そんなこと、俺が知りたいわ、くそ!」
普段、滅多に怒らない圭三から、苛立ちのこもった愚痴がこぼれる。
「あー、そっすよね。そだ、このトラブル収まったら、みんなで風俗で行もきますか!出すもん出して、スカッとしましょうよ!」
少しでも機嫌をよくしてもらおうと、圭三の好きな風俗に誘う。
「お、尚弘も行くか?いいぞ、お勧めのお店案内してやるぞ。少しお高いけどな。」
圭三から少し笑顔が出た。
「こんな状態じゃ、みんなオナニーも出来んから溜まってるだろうしよ。」
「ほんとっすわ。ほら、システム会社の女、いるじゃないっすか。あの女見かけると、それだけで勃起しちゃうくらいっすよ。」
正直言うと、尚弘はあの女が気になっていた。
色気のない服を着ているものの、顔は相当可愛い。体だって、胸と尻が大きく、腰はくびれている。今の状態じゃ、見かけるだけで欲情を覚える。
「お前もか。さっき、向こうでもそんなこと話してる連中いたぞ。」
「まぁ、可愛い顔して、エロい体してますからね。そいや、オナニーしたいなら、あの女みたいにシャワールーム行きゃ出来なくないっすよね。」
「だったらよ、あの女が入ったあとのシャワールーム入って、あの女の陰毛でも探すか?んで、それオカズにすっか⁉︎」
「いやいや、誰の陰毛かわかんないっすよ。んなことより、いっそシャワールームでも覗きます?合鍵使えば、簡単っすよ!」
尚弘は下品に笑いながら、冗談を口にした。
しかし、圭三は考え込むように黙り込んだ。
「は、羽田さん?」
「おい、尚弘。更衣室の合鍵もってこい。」
「へ?」
「こっちはよ、オナニーも出来ず、ずっと溜め込んでんだ。にもかかわらずよ、あの女は一人でシャワールームを独占して、シャワー使ってやがる。きっと、誰も来ないことをいいことに遠慮なくオナニーしてるかもしれねぇ。…だったらよ、俺たちも楽しむ権利、あるだろ?」
圭三の目は本気だった。システム会社への恨みが、友里個人に向けられたのだ。
「や、やばくないっすか、それは。さすがに。」
「構うもんかよ。こんな状態にした賠償責任、体で払って貰おうぜ。」
5日間の徹夜は、圭三だけでなく尚弘の思考もおかしくさせていた。
「そ、そっすよね。わ、分かりました。合鍵持ってきます。」
「おう。俺はその間に人集めてくるわ。へへへ、風俗行かなくても、みんなでスッキリできるかもな。」
下品な笑いを浮かべた圭三を残し、尚弘は合鍵を取りに向かった。