たどり着いた場所-5
事後のシャワーは別々だった。私は一緒に、と言ったが、神村は断り、私の身を先にバスルームに促した。
すっかり息を落ち着けた二人はベッドで寄り添っていた。
「シヅ子ちゃん、先月の生理はちゃんとあった?」
「え? はい」
「そうか」
神村はいつも終わった後、眠りにつく前にしてくれるように、枕に伸ばした右手に私の頭を乗せさせようとしたが、私は拒んだ。
「シヅ子ちゃん、今日は何だか様子が違うね」
「……」
「何かあった?」
私は天井を見上げ無表情のままで言った。「別に。何も」
「何か……攻撃的だったけど」
「やってみたかっただけ」
「そう」
神村も天井に目を向けた。
私の胸の中の炎は、まだゆらゆらと燃えていた。
「もっと気持ち良く抱かれたかった……」
私がそうぽつりと言うと、神村は身体を起こし、むっとした顔で私を見下ろした。
「何? その言い方は」
私は神村を見上げ、きっと睨み付けて言った。「確かにわたしは貴男のちゃんとしたパートナーじゃない。だけど、今の貴男にとって一番深い関係の女だって思ってた。わたしだけが一番だって!」
神村も私の目を睨み返した。「今は君が一番さ。いきなり何を言い出すんだ!」
「わたし以外にもオンナがいるんでしょ?」
「いるわけないじゃないか! どうしてそんなことを急に言い出す?」
「貴男は今独り身だし、抱こうと思えば、いつでも誰でも抱けるわよね」
神村の唇がぶるぶると震え始めた。
「いいかげんにしろ! 君が何を勘違いしているのか知らないが、今まで通り、僕にとって君が唯一であることに変わりはない!」
私は思わずぷいと彼から顔を背けた。むやみに涙が溢れてしかたがなかった。
「僕は君以外の女性を抱いたりしない! 決して!」
思えば、私と神村がこうして口論をするのもそれが初めてだった。
しばらくの間、二人は黙ったままだった。
やがて神村は元のように私に寄り添い、横たわった。
先に神村が口を開いた。「ごめん、大声出しちゃって……」
私は黙っていた。いや、口にする言葉を思いつかないでいた。
また長い沈黙があった。
「僕は……」不意に神村が独り言のようにぽつぽつと口を開き始めた。「君といると、本当に心が癒やされた。月曜日の憂鬱も、水曜日の倦怠感も、君と同じ所で同じ時間を過ごすとすっかり忘れられた」
神村はゆっくりと顔を私に向けた。「そして独り身のむなしさも」
私は彼の目を見ることができなかった。
彼は自分の胸の上で指を組んだ。
「正直に言うとね、僕は秋のあの宴会の場では下心満載で君と話してた」
「そうなんですか?」私は思わず神村に顔を向けた。
「うん。妻との交渉がずっとなくて、身体が欲求不満になってて、誰かを抱きたくてしかたなかったんだ」
「その時、わたしが都合良くそこにいた、ってこと?」
神村は申し訳なさそうに数回瞬きをした。「まあ……言ってしまえばそうなんだけど……」
私は目を天井に向けた。「わたしもそうかも」
「え?」
「夏に会ったきり、大阪の彼に抱いてもらってなかったから、わたしも誰かとそういうことをしたい、って思ってたような気がします。思ってた、って言うより、身体が求めてた、ってことかな……」
「そうなんだね。君も」神村も顔を天井に向け直した。
「わたしたち、偶然波長が合ったんですね」
「そうだね。共鳴し合ったんだね。偶然」