笛の音 3.-31
「何なの? オッサンの愛人? ……バッカみたいなカッコしてる」
ぎゃははという育ちが知れる哄笑を放つと、遅れて入ってきた信也を振り返った。
「愛人じゃない。……有紗は俺の可愛い娘だ」
「はっ。……アリサちゃんだって、気取った名前っ」
ぽんとバッグをドレッサーへと放り投げると、「きんっも。愛人と『お父さんプレイ』ってやつ? ……てかさー」
女は逸らしている有紗の顔の正面へ回ってまじまじと見つめてきた。有紗が逆へと顔を背けると面白がって追いかけてくる。
「何か噛まされてっからヨダレ、ダッラダラだからぶっさいくって思ったけど、よく見たらけっこーキレイな顔してんじゃん。あんた、こんなオッサンに奴隷にされちゃってんの? いくら貰ってやってんのぉ?」
有紗を嘲り、「……で? この子と一緒に3Pしましょぉって?」
信也をも嘲ると女は腕組みして立ち上がった。間近に垣間見た女は、入ってきた印象で有紗よりかなり年上だと思っていたが、それは荒れた肌を隠す厚い化粧のせいで、自分とそう変わらない歳頃だった。
「……ま、ある意味3Pだな」
信也がシャツとズボンを脱ぎ始める。
「ちょ、オッサン。なに勝手に決めてんの? ただヤルだけだと思ってたんですけどぉ?」
「ちゃんと上がる銘柄教えてやったろ?」
「そういう話じゃない……、って言いたいとこだけど、じゃ、もう一個教えてよ」
「やめとけ。足がつく」
信也がブリーフ一丁で近づいてきて、女そっちのけで有紗を改めて鑑賞し、満足気な顔を浮かべた。視線が体じゅうを巡ってくる。乳暈が丸く膨らみ、引っ張られたように硬く充血した乳首、艶めかしくよじる脇腹、もどかしさを逃がそうと無理だとは分かっていても閉じようともがく足の付け根、そしてレザーの下着を纏っていても臨界が近くなっているのがバレている花園。信也の視線がそれら全てを見逃すわけはなかった。
「やだよ、もっとお金くれないんなら帰る。こんなさ、変態ビッチと一緒にいたくないしぃ?」
女は腕組みしたまま、もう一度有紗を見て、こらえきれずに蔑みを鼻からふき出した。
「……おいっ、俺の娘を侮辱するなっ。……誰のお陰でヤミ金に焼かれずに済んだと思ってるんだ? お前の投資口座、凍結してやってもいいんだぞ?」
声を濁した信也に本気を垣間見た女はたじろいだ。
「な、なによぉ……、わ、わかってるし。ちょ、ちょっとさ、シャレで言っただけじゃん……」
「こっちへ来いっ」
信也は乱暴に女を後ろから抱き寄せると、引きずるように正面のベッドに座った。自分の膝の上を跨がせて後ろからバストを揉みしだいている。
「ほおら、有紗ぁ……、お父さん、有紗の前で他の女とセックスしちゃうぞぉ?」
女を後ろから抱きしめてバストを縦横無尽に揉みながらも、目を逸らしている有紗をじっと眺めていた。「いいのかぁ? 有紗のおちんちんが他の女に取られちゃうぞぅ……。そんなにエッチになってるのに」
黙ってバストを揉ませていた女だったが、信也に耐えられなくなったのか、肩で息をついて、
「ね、こんな感じで続けんの? オッサン、マジ寒気するんだけど?」
「そうだ。娘の前でイヤラしくなってくれ」
「『イヤラしくなってくれ』って言われてもなぁ……。なんか、プレイ、とかって醒めるっていうか」
「瑠依子は前に俺とヤッたみたいにヤレばいいんだ。あ? ヒィヒィ言って、ホストにイカされるよりたくさんイッたって白状してただろ? お前こそドMビッチのくせに」
「はぁ?」
瑠依子はチラリと有紗の方を向いて、「そんなの……、なってないし」
チークよりも赤くなっているのが、信也の言を真実だと言っているようなものだった。ボールギャグに顔を歪められていても、明らかに自分よりも上品な美貌を誇っている有紗の前で、まるでセックスにおいても女ぶりが格下だと言われているようで、被虐でバストを揉まれる身のくねりが艶っぽくなった。同時に黒目の中に有紗への憎悪の焔が灯ったのを、信也に見ろと言われても見れる筈もない有紗は気づかなかった。
「認めろ。……俺にイジメてほしいんだろ?」
「んっ」
後ろからワンピースのミニ丈を捲くられて、顔を出した意匠だけは派手な黒下着の上から荒々しくクリトリスをイジられる。「……う、うん。し、して……」
瑠依子は後ろを振り返って信也の唇にむしゃぶりつきながら、子犬のような甘えた声を漏らし始めた。
「ん? どうだ? もうスイッチ入ったか?」
「んっ……、そ、そんなことないもん……」
「じゃ、この腰の動きはなんだ? クイクイ動いてる」
「やん、言わないでよぉ……」
叔父の声音は相変わらず寒気がしたが、キスをしながら恋人のような睦まじい会話と、体を慰められて快楽に溶けた瑠依子の喘ぎが聞こえてくる。二人の姿を見ないでいることはできたが、耳に届く音は躱すことができない。有紗は、汚らしい叔父と、そんな叔父に金のために体を開いている瑠依子を心底軽蔑するのに、二人が淫欲を満たし合い始めると、意に反して体の疼きが強くなった。
「ほら、オマンコ、ジュボジュボしてほしいか? ん?」
「うっ……、あっ……、して? ねぇ、オジサン……」
「信ちゃん、だろ?」
「あっ……、うん、信ちゃん……、ジュボジュボ、ほしい……」