裏切りと凌辱の夜A & 新たな恋の始まり-4
坂崎が床にうずくまって泣いている図体の大きな男の目隠しを外し、さらに隣に転がっている細身な男の尻を指さして笑った。
「女をレイプするほど性欲が余っているなら、相手が男でもかまわないだろう。こいつの尻にぶちこんで、中で出してやれ」
それができたら、おまえだけは許してやろう。
泣いている大男は、最初に桃子を犯した奴だ。
あのときの勢いが嘘のように、彼のその部分はだらりと垂れ下がったままぴくりともしない。
はやくやれ。
そう急かされても、許してくれと繰り返すばかり。
たしかに、こんな状況で勃起できるほど肝の据わった男ではないと思う。
後先のことを考えず、簡単に手に入る快楽を食い散らかすだけのクズ。
同情はできなかった。
坂崎が背後に向かって何事か指示を出す。
薄笑いを浮かべた黒服の男がどこかへ消え、すぐに戻ってきた。
その手には、大きな肉切り包丁。
よく研がれているらしく、刃先がピカピカと光っている。
それを見た瞬間、全身の血が逆流しそうになった。
もういいから、と立ち上がりかけてやめる。
まだ、許せない自分がいる。
この先に期待している自分がいる。
もう誰でも予測できる、凄惨な結末を。
「なんだ、できないのか。そんな役に立たないもの、ぶら下げていても仕方がないだろう」
良也や他のふたりの目隠しも外された。
許してくれ、許してくれ。
そう呪文のように繰り返す太った男が仰向けにして押さえつけられる。
その萎れた陰茎を、黒服の男が握った。
包丁の刃が肉茎の根元に当てられる。
「い、いやだ、やめてくれ、俺は、俺は悪くないって言ってるだろう!」
「言いたいことはそれだけか? いいぞ、やれ」
泣き叫んでいる男の口に、黒くなった雑巾が押し込まれる。
くぐもった叫び。
鮮血が飛ぶ。
直視できない。
裸の男たちが震えながら失禁した。
輪の中から拍手喝さいが起きる。
同じことが二度繰り返された。
怯えきった良也。
返り血に染まった男が良也の前に立ったとき、桃子は思わず立ち上がって坂崎に駆け寄った。
まだわずかに情が残っていたのかもしれないし、これ以上の惨劇を見たくなかったからかもしれない。
「彼は……もう許してあげて。本当に何も知らないまま、騙されていただけだから」
坂崎は首をかしげた。
「その場で見ていただけで同罪だと思うがね。まあ、君がそう言うならいいだろう」
結局、良也は人相がわからなくなるまで殴りつけられるだけで済んだ。
むせかえるような鉄錆の匂い。
どす黒いの血の海の中。
香苗は白目をむきながら、誰とも知れない男の上でヒイヒイと声をあげながら喘いでいた。
その後、良也を含め四人の男たちは大学から姿を消した。
とりあえず生きてはいるらしいが、何処で何をしているのか知りたいとも思わない。
香苗は二ヶ月ほど休学した後、再び同じ学校に通うようになった。
何事もなかったような顔をして。
ごくまれに桃子と顔を合わせると、逃げるようにして走り去っていく。
どうやら坂崎の『躾』は見事に効いたらしい。
後でそう言うと、坂崎は「よかった、また何かあったらいつでも言いなさい」と微笑んだ。
あいまいに笑いながら、桃子はこれから彼の前で出す話題には気をつけようと心に誓った。