裏切りと凌辱の夜-2
そして大学2年の夏休みが始まったある日。
いつものように図書館の空いた机で勉強をしていると、見覚えのない女の子が声をかけて来た。
「あなた、いつもここで勉強してるのね。英語は得意?」
ゆるいウエーブのかかった茶色の長い髪、マスカラをたっぷりとつけた漫画のように大きな目、つやつやした桜色の唇、香水か何かの甘ったるい匂い。
小柄で可愛らしい、でもちょっと桃子の苦手なタイプ。
でも無視するわけにもいかないので、適当に返事をした。
「得意ってほどじゃないけど、少しなら」
「よかった! わたし本当に苦手なの、どうしてもわからなくて困っているところがあるんだけど、教えてくれない?」
女の子は強引に桃子の隣の席に座り、とても熱心な様子で桃子に質問を重ねた。
悪い印象はない。
ただ、こういうタイプなら他に友達も多いだろうに、なぜわざわざ桃子に声をかけて来たのかがひっかかった。
学年だけは同じらしいが、学科も学部も違う。
日本語訳が一段落したところでそれを尋ねると、彼女はふんわりと春の花々が開いていくように微笑んだ。
「わたしも図書館によく来るんだけど、あなた、いつもひとりでお勉強してるでしょう? なんだかキリッとして素敵だなって思って、ちょっとお話してみたくなっちゃった」
よかったら、お友達になってくれない?
わたし、1年の須山香苗(すやまかなえ)っていうの、よろしくね。
そう言われると、断りにくくなる。
なんとなく腑に落ちないものを感じながらも、桃子は友達になることを了承した。
その日から、香苗は授業以外のほとんどの時間を桃子と一緒に過ごしたがった。
お昼休みも、桃子が図書館でアルバイトをしているときも。
サークルまで同じところに入ってきた。
夜は夜でアパートにまで押し掛けてくる。
良也と桃子が会っているときでさえ、香苗は遠慮しなかった。
知り合いに会うたび「わたしと桃子ちゃんは親友なの」と吹聴し、桃子にも良也にも不快な思いをさせないように上手く立ちまわった。
頼りない妹が兄や姉に甘えるように。
はじめは迷惑そうにしていた良也も「しょうがないな」と笑いながら香苗を受け入れるようになった。
三人でいることが当たり前のような日常。
桃子自身も、彼女に気を許していた。
まさか、あんなことになるとは思わなかったから。