〜 周回 〜-2
ざっざっざっ。
案の定だ。 8号は1周で終わらせるつもりはないらしい。 少女を踏み越えた列の先頭はさらにトラックを回り、二度目の靴跡を残すべく戻ってくる。 顔をあげ、手を大きく振る。 足元は芝が延々と続くかのようにやってくる。
ざっざっざっ……ぐに、ぐい、ぎゅむ。
繰り返す光景。 踏む少女達と、踏まれる少女。 今度はさっきのようにお腹の上でバランスを崩す生徒がいなかった。 横たわる少女も、思い出したようにビクンと揺れる以外は、基本的に静かに全員の踏みつけを受けとめた。
ヒトがヒトを踏むという異様な光景も、当事者たちが動揺をみせなければ、別になんてことはない。 2周目の最後尾がお腹を踏み越えたところで、8号が横たわる少女をひっくり返し、腕をもってトラック内に引っ張った。 今度は芝でお尻を上にむけ、寝転がった恰好だ。 さらに尻たぶを自分の両手で開き、中央に隠れた陰穴を晒させる。
3周目がやってくる。 列をなす少女たちは、お腹とお尻の違い気付いた様子を見せず、淡々と白いお尻を踏んで行進を続ける。 お腹と比べると、靴がめり込んで柔らかい双じんが歪にへしゃげ、痛々しさよりも滑稽さが増していく。
ざっざっざっ……ぐにぃ、ぐいぃ、ぎゅむう。
表情はうかがえないが、横たわる少女は先刻同様、逃げださずにこらえた。
列の最後の一人がお尻を踏んだところで、8号が行進を止め、尻と腹が土埃まみれになった少女を立たせた。 少女は赤い身体と裏腹に真っ青な顔だった。 すぐに動くかどうか懸念したが杞憂に終わり、足取り確かに列にもどった。
なるほど。 腹と尻で終わりにするのか。
僕が学園に在籍していた時は、お尻の次はたいてい胸を踏まれたものだ。 少しでも肋骨、肺に衝撃がこないよう必死で乏しい乳房を寄せ、顔のすぐ下を通る足の衝撃に備えたことを思い出す。 胸以外にも、おでこを踏まれたこともあったし、股間を踏まれたこともあったし、大抵の場所は一度や二度踏まれている。 今日は初日でもあるし、8号だって甘くしたくもなるんだろう。
『……』
『『〜〜』』
右向け右、だろう。 8号の指示で全員が体勢を90度曲げる。
いつの間にか8号は大きな薬缶を下げていた。 少女たちの前で蓋をとり、地面におく。 モニター越しに液体が揺れて、中には並々と液体が入っているのがわかる。 ああそうか、水分補給のタイミングか。 午後の気怠い日差しとはいえ、水分補給なしに運動し続ければ不都合が起きる場合がある。 あと少しで7限――午後の最後の時間――が終わるので、やや時期を失した感もあるが、薬缶の水を振舞おうということだ。
8号は勢いよくスウェットをおろした。 性別のわりにたくましい下半身を露わにすると、グイと股間を落として薬缶にあてがう。 ぷしっ! 迸る一条の体液が弧を描き、薬缶の液体に混ざった。
8号の行為は学園の規則だ。 この学園では、生徒が何かを口にする場合、必ず目上の人間、例えば教官や担任、先輩や寮監の排泄物を含めなければならないことになっている。 ここでいいう排泄物とは、大小便はもちろん、唾液や鼻糞、目糞などをさす。 実際には小便や唾が用いられる場合が多く、大便は殆ど見かけない。 理由は明白で、出す方は出す方で大変なためだ。
小水が混ざった薬缶を掲げた8号に、少女達は第2姿勢をとる。 しゃがんで股間を広げ、前を向いて顔をあげ、口を開いたところに、8号が薬缶の中身を流し込んだ。 先頭の少女から順番に、相応の量を一気に入れる。 少女達は零さないよう懸命に呑み込み、喉がゴクゴク嚥下した。
全員に薬缶がいきわたったところで、少女達は第2姿勢から第1姿勢に戻る。 新人に甘い8号のことだ、どうせここら辺りでお開きにするんだろう。 まだ続けるにしても、大した時間は残っていないし、せいぜい靴の掃除をしてから、教室に戻すに違いない。 そろそろモニターを切り替えて、他の教室を確認しようか――。
――ん?
8号はニコニコしながら身振りを交え、少女たちに話しかけている。 一方で少女たちは、これまで見せたことのない表情、つまり、引きつった作り笑いを浮かべている。 もしかしてまだ何かするのだろうか? ここが芝トラックで、放課間近なことを考えると、もしかして行進排泄か?
『……』
『『〜〜』』
行進にうつる少女たち。 今回の行進は、さっきと微妙に違っていた。 両手を大きく脇から肩へ振っていたこれまでに対し、今回は両手を後頭部に組んだまま、下半身だけで行進している。
行進排泄の動きに間違いない。
8号はこのクラスが気に入ったのだろう。 後片付けの面倒さを含め、この指導を好む教官は少ない。 わざわざ今日の締めに持ってきたということは、少々の労は惜しまないつもりで、このクラスの躾にあたっている証拠だ。 僕にとっても久々なプログラムだ、もう少しこの画面をチェックすることにしよう。
ざっざっざっ。
作り笑顔は酷なものだ。 厭なことを楽しそうにさせるといっても限度がある。
ただ一人先頭をあるく少女だけが引き攣った笑顔で真正面を見つめる中、他の少女達の視線はすっかり下を向いていた。