〜 校庭 〜-3
「よろしい。 それじゃ、今日のところはここにいるメンバーに、体育実技の基礎を教えてあげちゃいましょう。 みんな嬉しいかなあ?」
「「ハァイ! ありがとうございまぁす!」」
私たちを一瞥した教官に、大きな返事。
私と教官のやり取りから察してくれたようで、2号教官に対する返事より、一回り声が大きかった。
ところが。
「あれ? 嬉しいなら笑顔じゃないの?」
ビシッ!
「っ……も、申し訳ありません! ご指導ありがとうございます!」
私の右頬を横殴りに短鞭が撫でて、痛みを感じるより先に私は叫んだ。
「別にイヤなら指導しなくてもいいのよね、こっちとしては。 クソ暑い中、わざわざ出向いて来てあげてるのに、つまんなそうな顔見てるだけで吐気がするのよ。 みんなして仏頂面しちゃってさあ、何様のつもりよ」
ビシッ!
反対方向に顔が跳ねる。 綺麗に真横を向かせる角度で短鞭をふるい、しかもギリギリ口が動く。 もしもこれが加減しているならとんでもない腕前だ。 倒れない程度に、口が利ける程度に躊躇なくヒトの顔をぶつなんて、並大抵では勤まらない。
「ご指導ください! お願いします! ありがとうございます!」
ポロポロ零れる涙はどうしようもない。 頬っぺたがリンゴよろしく赤く色づくのもしょうがない。
とにかく口許を緩め、目元を下げ、私は精一杯笑顔をつくって叫んだ。
「いっとくけど、次、他の子に笑顔が出来てなくても、貴方に指導するからね」
「ハイ! ありがとうございます!」
「貴方ムカつくわ。 ぶるぶる震えてりゃいいのに、こっちが指示する前に並んでみたり、一人前に口を利いてみたり」
ビシィッ。
左の乳頭が赤く染まる。
「ご指導ありがとうございまぁす!」
「ちゃんと返事もできるなんて、可愛げってもんを知らないの? こういう時は、すこしどもったりトチったりするくらいが丁度いいのに、わかんないかなあ」
ビシ、ビシィッ。
「申し訳ありません! 愚鈍なメスに、な、何度もお手を煩わせ、ありがとうございます!」
「優秀そうな貴方だから、これくらいはどうってことないでしょう?」
バシィ! 一層痛烈な、脇腹への一振り。
「ひぐっ……く、あ、ありがとうございまぁす!」
「もう一発いくわよん♪」
「お願いします!」
ビシッ。
「もっと欲しい?」
「ありがとうございます!」
バシッ。
口を開くたび飛んでくる打擲は、もはや言いがかりの域を超えている。
作り笑顔がつくれているかどうか以前に、どこをぶたれているかも分からない。
更に20発ほど短鞭が踊り、ようやく教官は私の前を通り過ぎ、改めて全員に声をかけた。
「それじゃ改めて質問です。 みんなー、元気ですかー?」
「「ハイ!! ありがとうございます!!」」
大きく、元気よく、明るい返事。
身体中に赤い線を滲ませた私を含め、全員満面の笑顔だった。