心の対岸-1
あの男(ひと)、千章流行に出遭ってしまった……
それは避けられない運命の始まり…… そして本当の私(恵利子)の終焉(おわり)
それを繋ぎ止めてくれた彼(ひと)、不易一文との出逢いのはじまり。
それは……
その日、お母さんに…… 香さんに招かれた不易くんが訪れる。
「昨日恵利子がお世話になったそうで…… それでよろしければお茶でも、ご一緒にいかがでしょうか?」
香さんはそう言って、昨晩私の事を救って?くれた不易くんをお茶に招待した。
何故か?
香さんも、汐莉に若菜(妹たち)も、不易くんに好意的だった。
不易くんは、わたしにとって恩人なのかもしれなかったけど……
わたしは、わたしは…… あまりうれしくなかった?
でも……
「あのっ、厚かましいお願いで恥ずかしいのですが、そのDVDお借り出来ないでしょうか?」
不易くんは帰り際、不意にそう言った。
この時、何故か、不易くんとほんの少しこころが触れたような気がした。
それは微かなきっかけのはじまり。
幾重にも繰り返される時間と言葉。
不易くんとも過ごした、今年の夏の日は…… わたしの中の本当の自分とも……
7月25日※
わたしの中のもうひとり自分が大きく膨らみ始めたあの日から、それは不易くんとの触れ合いとのはじまり。
それから過ごした日々。
……4ヶ月後のこの日、わたしは自らの意思で不易くんの…… もとに訪れる。
それでも…… わたしはあの男(ひと)に、繰り返し抱かれていた?
嫌で嫌でしかたないはずなのに、それがいま何故かひどく愛おしい?
あの男(ひと)がわたしの身体(なか)に入って来る感覚。
犯されたあの日から繰り返し、繰り返された行為、その痛みと苦しみが…… 今は何故か愛おしい程に、私の心を狂わせる。
「恵利子……」
あの男(ひと)は、その瞬間そう呟くように声を漏らす。
そして愉悦の表情…… でもそれはまるで跪き赦しでも乞う表情にも見て取れた。
まるで独立した生き物(エイリアン)は、瞬間、わたしの身体(なか)で果てる。
そしてそれは同時に、てのひらの中で微かに鼓動を伝える小動物の様にさえ感じられる瞬間。
その一瞬、それはひどく頼りない程に脆弱な存在。
そう、それは…… あの男(ひと)だけじゃない!?
何人もの男(ひと)が、わたしの…… わたしの身体(こと)を欲し…… 幾つもの眼がわたしを追い、追い求め絡みつき、絡み付いてくる。
どうしてそんなに、こんなことがみんなしたいの?
(それは貴女が○○だから、それが貴女の運命…… )
不意に恵利子の中の本当の恵利子?が本性(かお)を覘かせる。
そして本来であれば知り得ぬはずの記憶、レイプによる処女喪失時の映像(ビジョン)が、千章流行の感情と共に直接脳裏に送り込まれて来る。
狂おしい程の欲望(ねつ)があてがわれた先端から伝わってくる。
より深きを求める欲望は、引き裂きながら胎内深く潜り込んでくる。
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※恵利子と不易一文(ふえきかずふみ)の出逢いについては、別途掲載中の「白色金 (white gold)」にて詳しく描かせていただいております。
ご興味がございましたら、是非ご覧になって下さい。
http://syosetu.net/pc/book.php?pid=novel&no=16534