ミロスラワの場合-2
父親がまだ生きていた五年生の頃、男子が一番悩むことは何なのか、ミロスラワは尋ねてみた。やはり、おちんちんのことだろうなと大らかな父親は答えた。ませた所のないミロスラワは、当時も父親と風呂に入っていたし、一つ歳が上のいとこが田舎から来た時も、自分から誘って入った。いとこは大人と子供の形の違いを実演して見せた。そして、こうならないで悩んでいる奴が山ほどいると言った。それも、大抵は恥ずかしくて男同士でも言えないものだと。ミロスラワは、女の自分にできることがないとは思わなかった。六年生になって、男女が互いを意識し始めると、美しかったミロスラワに男子が声を掛けてくるたび、少女は無邪気に見せ合うことを持ちかけた。ミロスラワはそのことにしか興味がなかったので、いやらしい女だと男子は少女のことを決めつけ、離れていった。少女の体を見て嫌がる男子も数人いた。その年、父親が亡くなった。死因は心筋梗塞だったのだが、運転中で、他人を巻き込む事故となった。少女の誕生日の前日だった。少女の心はたちまち大人びざるを得なかった。
帰宅してからミロスラワは今日の出来事について考えてみた。自分は夢で見た観音菩薩のような行ないをしようと思っていた。決意はあったが、片や悲壮な響きの伴っていたそれは、力の足りないおこがましい行為だったかもしれない。真剣に考えた末の閃きは、おかしな結果になった。力みのない一種の和解を状況にもたらした。夢の中の僧侶は舟橋と自分の二人だったのではないかとミロスラワは思った。本物の観音菩薩があたかも横にいて、閃きが与えられたかのように感じられてきた。
父親の死とそれにまつわる出来事も、また世の中の悲しみも、男子との関係も、ひょっとしたらもっと違う見方で捉え直せるかもしれない。偉大なものに任せて、成り行きを信じてみようかと少女は思った。
それでも、舟橋の思いは遂げさせなければならない。そして、自分に恥を打ち明けてくれたお礼として、五百円あげるのだ。ミロスラワは、来週の約束全部と小遣いの残りとを確認することにした。