新たな生徒たち-1
「ああ、木村さん? へえー、高校の先生だったの。すごい偶然ね」
「それで、ビデオのことは……」
「ビデオねえ……。あのひと撮影好きだから。前もトラブルになったのよ。まあ、いちおう私から注意しておくわ」
二回めのデッサン講座がはじまる前に京佳先生に相談してみたが、あまり頼りにならなさそうな反応に、早紀はこっそりため息を吐いた。キモ豚があのビデオをほんとうに他人に見せたら、ネットに流したら――。心配は早紀のなかでどんどん膨らんでいく。足取りが重い。
「さあ、生徒さんたち、みなさんお待ちかねよ。今日は新しい生徒さんたちも入ったの。しかも若い子」
新しい生徒さんか。また男のひとだろうか。厭だなあ。そう考えながら、早紀は京佳先生に背を押されてのろのろと教室に足を踏み入れた。
「マジで桃井じゃん!」
室内に入るなり、はしゃいだ声が飛んできた。
早紀はその声の主を見る。そこには早紀と同世代とおぼしき男がいた。その顔に見憶えがある気がして、じっと見つめる。
――まさか、佐伯くん?
浅黒く焼いた肌に、サイドを刈り上げた黄色に近い色の髪、過度に整えた眉、口のうえと顎の短い髭。歌舞伎町をうろついていそうな雰囲気だ。バスケ部キャプテンだったころの面影はない。爽やかで格好良くて人気があって、でもシャイで寡黙な佐伯くんに、早紀はひそかに憧れていたのに――。いまやただのチンピラだ。
その両どなりには、スキンヘッドの男と出っ歯の男が座っていた。ふたりとも名前は憶えていないが、同じクラスだったことは確かだ。
「桃井の裸見られるなんて超ラッキー」
「しかも桃井、なんか垢抜けてエロくなってるし! 動画で見るよりも胸でかそう」
「キモ豚マジ感謝!」
はっとキモ豚のほうを向くと、キモ豚こと木村琢郎は早紀を見つめながら醜悪ににやけて頷き、臭そうな白い舌を出して舌なめずりした。
まさかほんとうに、あのビデオを同級生に見せるなんて。しかもこの場に呼ぶなんて。早紀はすでに涙ぐんでいた。
「あら知り合い?」
京佳先生が愉快そうな顔で訊ねた。
「そうそう、俺ら高校の同級生!」
出っ歯がさらに歯を突き出して言う。
「へえ、そうだったの。知り合いがいても容赦はしないわよ。今日はちゃんと全裸になってもらうからね。さあ、はじめましょう」
今日の早紀は千鳥格子のお嬢さま風ワンピースを着ていた。しぶしぶうなじのホックを外し、ファスナーに手をかける。緊張しているのもあって、うまくファスナーを下ろせない。
「だれか脱ぐのを手伝ってあげて。そうね、菅沼さんこっちに来てくれる?」
京佳先生が、早紀の真後ろにいた男を指名した。
「悪いねえ、こんなおじいさんで」
菅沼さんと呼ばれた男が立ち上がり、早紀の後ろに立った。むわっと不快なにおいが早紀の鼻をつく。加齢臭というやつだろうか。
男の手がうなじに触れる。「ええっと、このファスナーを……あれ、手が乾燥しててうまくできないな」いったん手が離れ、ぺちゃぺちゃと水音が聞こえた。「よし、唾で濡らした指で……」
じいいい、とファスナーを下ろす音が教室に響く。先週買ったばかりのお気に入りのワンピースを知らないジジイの唾液で汚されてしまった――。早紀がショックを噛みしめているうちに、ファスナーはお尻のところまで下ろされる。ワンピースが肌を滑り、すとん、と床に落ちた。
眩しいほど白い早紀の素肌があらわになった。