〜 条件 〜-1
〜 条件 〜
29番はもう限界に来ている、と私は思った。
膨らんだお腹から察するに、詰め込まれた浣腸液は3Lほど。 薬液が抽入されてから少女の体が震えるまで約1分。 つまり、それなりに強力な即効性の薬液が、豊満な双乳の下に満ちているわけだ。 理性云々ではなく、生理的に許容範囲を超えている。
合宿で22番と呼ばれるようになってから、私は何度か浣腸されたことがある。
最初の経験は今でもよく覚えている。 冷たいものを腸に満たされ、結局10分も我慢できなかった。 『22番、排便許可願います!』と何十回も連呼し、悲しいくらいあっさりと、人目を憚らずに脱糞した。
「ふっ、ふっ、ふぅっ」
浅い呼吸を繰り返す29番を見ているだけで、あの時の、どうしようもない切迫感が蘇る。 私だけでなく、29番を見守る教室中が、得もいえぬ緊張感ではりつめている。
教官は29番のお腹をさすったり、股間をなぞったり、器具を引っ張ってみたり一通り試してから大きく頷いた。
「いいわ。 好きにしなさい」
「そんな……うぅぅ、うっ、うっ」
「どうしたの。 好きにしていい、といったでしょう」
小首をかしげる教官。 一方、教壇の上で四つん這いになったまま視線を彷徨わせる29番。
きっとどうすればいいのか、分からないのだ。 立場が逆ならよくわかる。 突然好きにしろと言われて、自分で行動できるわけがない。
そんな29番に、教官は冷ややかに話しかける。
「貴方は私の指示に満足に従えなかった。 そうでしょう」
「うぅ……」
「返事」
「は、はい。インチツの奥で理解します」
「つまり、自分で勝手に動いたわけね」
「……はい」
「これから指導を受ける立場のモノが、自分の意思でマスターベーションの機会を複数回にわたって怠り、意思を見せる場もいかさなかった。 つまり、重ねて私に逆らった」
「そ、そんなぁ……」
29番にしてみれば、教官の意思を忖度できなかった。 だのに『意図的に逆らった』と解釈されて、さらに追い込まれる。 学園では『できない』も『しない』も平等に許されない。 どんな無茶な要求でも行為でも、とにかく私たちはやるしかない。
そして、教官の言葉に対しては、一切の弁解は許されていない。 頷くしかない。
「逆らったわよねえ。 ハイ、返事」
「さ、逆らいました。 申し訳ありません! インチツの中から謝罪しますッ」
「反抗したと認めるのね」
「反抗しました。 申し訳ありません!」
「あ、そう。 よくまあ大声だせること」
「うぅっ、も、申し訳ありませんでした……インチツ深く謝罪……謝罪します……」
強者による理屈に、29番は唇を噛んで謝罪した。 便意が迫る中、言葉を選ぶ余裕もないのだろう。 教官に対しストレートにこたえる。 どう答えても教官の胸先三寸で捻じ曲げられると分かっていても、私ならああは答えない。
例えば『無様なケツマンコにお慈悲をいただき、ありがとうございます。 可能でしたらこれから排泄する姿を御笑覧いただきたく存じます』みたいに、次の動きを懇願するだろう。 どうにかして流れを作らなくてはいけないわけで、相手に答えるだけでは何も動かない。
「反抗できるなら、好きにすればいい、といっています。 ここで見ててあげるから、やりたいようにやってご覧なさいな」
「そ、そんなこといわれても……」
「……」
教官が口を閉ざし、
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
29番が肩を上下させる息遣いだけが教室に響く。 膨らんだお腹が息をするたびに小刻みに波うつ。 途方にくれても便意は迫るのだ。 四つん這いになった足はガクガク痙攣し、顔色は一層青ざめて、唇などは真っ青といってよかった。
「ふぅっ! うっ、うっ、ふぅぅぅ――!」
ビクン。 続けてビクン、またビクン。 高く持ち上げた腰が大きく上下する。
あれは息んだしるしだ。 理性では『教官の指示を待たずに動いてはいけない』と判断したところで、生理現象には逆らえない。 体内の異物を吐きだそうとして、肛門を広げようとしたんだろう。
「ふぅっ、ふぅっ、ふぅぅん!」
繰り返す息み。 しかし腰が震えるだけで、一向に何も起こらなかった。
「ふぅっ、ふぅっ、ううんむっ」
当たり前なのだ。 息んだ程度ではじけるストッパーなら、とっくの昔に29番が教官の顔に漏らしてしまっている。 半端じゃない圧迫だから、どうしても排泄できないから、29番はあんなに汗びっしょりになって青ざめている。
「ぐすっ、ぐすっ、ぐすっ……ふんっ、ひい……!」
鼻水がこぼれる。 少し前から頬を伝う涙と合流し、ポタポタと教壇に雫がおちる。
「はっ、はっ、ぐすっ……あのっ、教官にお尋ねします。 その、て、手で道具を抜いても構いませんでしょうかっ」
かぼそい声。
合宿で教わった最重要事項の1つ。 それは『目上に対してはいかなる質問も無礼にあたる』ことだ。 この禁を破って尋ねた場合、尋ねたこと自体が原因で更なる試練に遭うかもしれない。 にも関わらず尋ねたということは、他にどうしようもないことを意味する。
「好きにしなさい。 ただし」
教壇の椅子に腰をおろし、目前で悶える29番のヒップラインを眺めながら教官は答えた。
口調は平静そのもの。 けれど、無造作に掲げた右手に紫のリモコンがある。