4. Speak Low-27
平松が髪を撫でてくる。その接触だけで悦子は拘束された居姿で全身を慄かせた。
「すごく敏感になってる」
一本だけ突き立てた指先が、頬をなぞり、首筋へ降りてくると、その軌跡に悦子の肌の上をゾワゾワと甘く淫らな掻痒を浮かび上がらせ、たっぷりと余韻を残しながら薄れ、そして消えていった。肩や二の腕でさえ、指先が這うとブラウスの中で身が波打つ。
「うあっ!」
背中をスッとなでられると、身をビクンと跳ねさせて背を反らした。その衝撃がやっと薄らいで、瞼を上げていくと涙の滲んだ睫毛の靄の向こうに平松が首輪を広げているのが見えた。
「……俺と結婚する?」
「うん……。する」
「ずっとドレイになってくれる、ってこと?」
その言葉に体の奥から蜜が迸った。悦子は熱い息を漏らして顎を上げ、首元を平松に委ねた。首輪が巻きつけられてくるヒヤリとした感覚のあと、バックルが通され首が絞めつけられたのを確認すると、
「……ずっとこうしてくれる?」
と艶々しい瞳で見つめた。
「するよ、もちろん。悦子が大好きだもん」
「なる……。ずっと翔ちゃんのドレイでいたい」
「じゃ、これ、ずっと続けるよ?」
「……翔ちゃんっ」
平松の言葉に悦子は歓喜の涙に濡れながら、「ぎゅっとして、耳にキスしながら言って!」
平松はテーブルの足に繋がれた枷を解き悦子を抱きしめた。耳にかかる髪を払い、唇を押し当てながら悦子の脳髄に直接言い聞かせてくる。
「ああ……、翔ちゃんっ……」悦子は体の中に流れ込んでくる言葉に身を溶かされながら陶然と天を仰いで、「一生、翔ちゃんのドレイでいさせてください……」
その言葉に平松はベッドの上に座ると、首から伸びるチェーンをクイッと引いた。腕はまだ自由が効かない悦子は、身を捩って膝を床に着くと呼ばれる方へにじり寄っていく。脚の間から落ちているローターのコントローラーが引きずられて床にカタカタと鳴った。
「俺を気持よくして?」
ベッドに腰掛けて開いた脚の間に身を入れた悦子は平松を見上げ、
「手……」
と訴えた。
「そのままで。口は使えるでしょ?」
「んっ……」
頬を真っ赤に染めながら、まるで獣のように口だけで振る舞う自分を想像して身を捩った。隷従すると言った。その主が気持よくしろと言っている……。悦子は膝を付いたまま身を伸ばしてベッドに座る平松の首にキスをした。艶めかしく舌でなぞると、後ろに手を付いて横柄な態度をしている平松の身が微細に震える。悦子はその振動がより性楽に強くなるように、平松の匂いを感じながら喉元から襟の縁、そしてTシャツの上から胸に舌を這わせて、やがて硬くなっていく小さな突起を見つけると、グロスと唾液に汚れるのも厭わずTシャツごと吸い付いて平松を愛した。
「気持ちいい……、ですか……?」
「……気持ちいいよ」
平松の声が、その吐いた言葉のとおりに湿っている。「気持よくさせてくれた分、このあと悦子を気持よくしたいって思うよ」
それを聞いて悦子は居ても立ってもいられなくなって、身を屈めると平松の股間へ顔を差し入れていく。手が使えない。見上げたが平松は悦子を冷徹に見下ろしてくるだけだ。必死に顔を押し付けてファスナーのスライダーを噛んで引き下ろし、ジーンズのボタンのすぐ傍の緒を齧って頭を振ってこれを外した。本当に獣のような気分だ。今の自分は平松を淫らに喜ばせるためだけにここにいるケモノだという思いがよぎると体の中のローターを締め付けていた。開いたファスナーに顔をうずめてブリーフ越しに固くなった男茎へ舌を沿わせ、唾液を染み込ませていく。平松が好きな場所は知っていた。悦子は舌先に感じる男茎の形で探りながら、ついにその場所を見つけて唇をふるいつかせた。頭上から強い鼻息が聞こえる。座っている平松の腰が蠢いた。悦子が染ませた唾液に混ざって、中で平松が漏らす夥しい先走りの匂いが鼻を突き、舌先に味覚を催させる。開いたジーンズの袷を口に入れて脚の方へ引きずろうとすると平松が腰を浮かせる。協力を得てジーンズを脚の付け根までズラすと、ズラした拍子にブリーフの上から顔を覗かせた先端の小さな穴へ舌先を突き立てた。舌で誘い出す度に新たな粘液が漏れ出てくる。もどかしい。もう悦子の唾液で広がった染みのせいで完全に形を浮かび上がらせている男茎の幹へ舌を上下させて、ブリーフの腰ゴムをはんで下へ下へと引き下ろす。男茎は硬く勃起して真上に屹立していた。自分の愛撫でこんなに漲ってくれていることを思うとすぐにでもしゃぶりつきたかったが、自分は隷奴なのだから、主のために先にすることがあると思い直した。膝を進めてギリギリまで平松に近づくと、上を向いている先端へと顔を押し付けていった。頬や額や目元、鼻先、顔の至る場所を使って平松の男茎を擦った。悦子のいじらしい姿に平松は美貌の肌に触れる度に呻き声を漏らし、男茎をヒクつかせた。爆発の予兆をにじませながら脈動する男茎に愛しみの頬ずりをしながら見上げ、
「どう、ですか……?」
と問うた。
「うん……。っ……、すごく気持ちいいよ、悦子。くっ……」
「出して……、くれますか?」
「あうっ……、いいよね? このまま」
「はい……、あ、あの……」
いつも悦子が恥辱に苛みながら言うと、平松は喜んでくれる。そのことを思い出した。平松に喜んでほしい。気持ちよくなってほしい。「しょ、翔ちゃんのザーメン、顔……、してください……」