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エスが続く
【OL/お姉さん 官能小説】

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1. Someone to Watch over Me-1

1.

"Someone to Watch over Me"
(そんなヤツが現れてほしい)




「あーあ」
 悦子はテーブルに肘をついた手のひらに顎を乗せ、トングでカイノミをひっくり返しながら呟いた。「オーバー30の女が二人で焼肉って終わってるわ、マジで」
 正面でマッコリを飲んでいた美穂は、はぁ?、という顔を向けて、
「私を勝手に終わらせないで。てか、あんたが朝から何回も『センマイ刺くいたい』ってメッセージ送ってきたからこうして付き合ってあげてるんでしょーが」
 と睨む。
「……新婚さんのジャマして悪いとは思ってんだけど、ちょっとはさぁ、悲しい同期に付き合ってくれてもいいじゃん」
 トングを置いた悦子は大半を自分だけで食べてしまっているセンマイにごま油をたっぷりつけ口に放り込んで、気だるそうに言った。
「そうだよ、謝ってよねー。ウチのダンナ、今頃独り寂しくゴハン食べてるよ」
「……ここぞとばかりに、オンナ誘って食ってんじゃん?」
「それはないね」美穂は悦子が摘んで小皿に置いてやったカイノミを半分に噛んで咀嚼しながら、「私のこと大スキだもん。毎日チューしてるよ、……結婚式から連続記録更新中。やんなっちゃうよねぇ?」
 自慢気な顔を向けられて、
「ニンニク臭ぇ女にして帰して記録途絶えさせてあげる」
 悦子はおろしニンニクを美穂の小皿の残り半分の肉の上にドバっと置いた。それでも美穂はチョッカラの先でニンニクを肉にくるんで、
「……それでもチューするよ。ウチのヒロくんは」
 と、これ見よがしに口をもぐもぐと動かして食べて見せたから、悦子は強く舌打ちをして仏頂面で新しい肉を網に並べた。
「ねー、コレってさぁ、仲の良い同期が私を慰めてくれる会じゃないの?」
 わけもなくトングで網の上の肉をとんとん叩きながら、悦子は恨みがましく言った。
「月イチペースで慰労会開かれて、グチ聞かされてちゃたまったもんじゃないんだけど?」
「しょーがないじゃん!」
 悦子はバン、とテーブルを叩いて、「喰うしかストレスの逃がし先が無いんだもん、今の私!」
「大変だなぁ、肩書持つと」
 今期から悦子は昇格して『チーフ』の名称が『コーディネータ』の前に付いた。他の事業部で言えば係長格だ。同期の男はすでに何人かが昇格を果たしていたが女では悦子が初だったし、全社でも三人めの女性係長だった。といっても残りの二人は経理と人事のスタッフ部門だったから現場部門では初だ。大手ゼネコンのグループ下で店舗向けインテリアのコンサルティングのほか、設備施工、什器等の手配やレンタルまでを手がける悦子の会社だが、女性社員はいることはいるものの完全に男社会の会社だった。もともとは親会社より施工業務を請け負うだけの会社だったのが、建設不況の折にグループ事業の統合が推進され今の形になった。だから会社は30年近くの歴史があるものの、悦子が所属するコンサルティング事業じたいの歴史は浅く、この部署については女性ならではのセンスが必要云々で女性社員がそこそこいるが、これは社内では異質な部署で、本来事業の施工側は男ばかり、全社比率的には圧倒的だった。人事部門は施工専業時代の風土が色濃くて、昇格候補自体に女性が殆ど上がって来ないことに影響していることは明らかだった。
「ホントだよ。……てかさ、もともと人がいなくて今いるメンバーでギリギリで回してんのにさぁ、人増えないでチーフの仕事だけが乗っかってきてんだけど」
 昨年度、悦子は都内を避け関東近圏の大都市にターゲットを搾ってリラクゼーションサロン、つまりマッサージ店を展開する企業が若い客層を取り込むために店舗インテリアを刷新するプロジェクトに参画した。昨年度最大の受注案件であり、部署の多くの人間が携わった。入社時から照明インテリアのデザイン、施工手配に携わっており、その手際の良さで部内でも一目置かれていた悦子は、このプロジェクトでも照明機材関連の担当メンバーだった。プロジェクト開始当初、まず全体イメージを決めるにあたり、建築士も含めた各担当が集まって会議が繰り返されたが、そこで悦子は壁紙等を選定する内装グループ、全員が男で先輩の社員たちとぶつかった。悦子に言わせれば、全くオッサン臭さが抜けないデザインだった。普段からいがみあっているわけではない。ただこれではダメだと思ったから、自分の意見をきっぱりと伝えただけだ。常に男性社員に負けたくない意識が滲み出ていた悦子だったから、うるさいことを言っているな、という空気が会議内に垂れ込めたが、定例的に顧客と打ち合わせているうち、常に悦子の案が選ばれる事実を前に、やがて他のグループの連中も悦子に意見を伺うようになった。プロジェクトも終盤を迎えるころには、自然と悦子をトップとするコミュニティができあがっており、プロジェクトリーダーも悦子に話を通せばチーム内に浸透をするから頼りにするようになった。


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