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悪徳の性へ 
【学園物 官能小説】

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〜 補習B 〜-1

〜 補習B 〜

「……ッ……ッ」

 頭上では時折えづくような、くぐもった音がする。 
 補号教官は口いっぱいに下着を、それも自分の便をまぶした状態でほおばっている。 
 
 スピーカーから『声』は聞こえなくなった。 放送はオフになったらしい。

 教官は机から降り、私の首輪から外した【30番】のプレートをカードリーダーにはさみ、何やらペンを走らせている。 私に関係することだろうか……それともさっきの『声』に関係することだろうか……。どちらにしても、私はここで声がかかるまで待つしかできない。自分から尋ねる勇気はなかった。

 5分ほど沈黙が続いただろうか。

 ガタリ。 ビシッ。

「……ッ」

 補号教官が口を膨らませたまた立ち上がり、私の首輪に繋がったリードを引く。 何の前触れもなかったので、私は呻き声を出すこともできなかった。 手足を曲げないよう、何とか補号教官の足許に寄り添う。

 ゆっくりと奥のドアにむかう補号教官。 ここまで私を連れてきた、今日初めて会った2号教官よりも足取りが早い。 ドアの前までくると、教官の爪先が私の顎をもちあげた。 顔をあげた先には、つまらなそうな、気怠そうな瞳が眼鏡の奥から私を見ていた。

「いちおしかいはないはら、よくひくように」
 
 お世辞にも滑舌がよいとはいえない言葉。 
 時と場所が違えばお腹を抱えて笑えたろう。 けれど私はもう1年近く笑っていないし、笑うつもりも、余裕もない。 いちおしか……『一度しか』だろうか? よくひくように、は『よく聞くように』だろうか?
 
「わはったら、へんひ」

 へんひ……『返事』と直感する。 私はすぐさま頷いて口を開けた。

「わ……わん!」

 四足を指示された場合、解除されるまでは人語を喋ってはいけない。 学園に入ってからイヤというほど叩き込まれた規則である。 

「あなあは、これはらひふんのはちをひつへはおひなはい。 きひんとはんへいひ、ひふんのはちがわかっはら、ふへきせつなへんほうはふふひむようひ」

 あなたは? 自分の価値? 見つめなおしなさい? 何をいっているか全くわからない。 
 それでも私は補号教官を見つめ、口をきつく結んで頷いた。 この言葉が私をまつ事態に関係していることは確かだから。

「ゆっふりへいいはら、ひていのりょうほ、くひにふるこほ。 はへおはったとほろへはんへいをひほへまふ」

 ゆっくり? 反省を……認める? とにかく、言葉の一句一句に集中し、私は胸に刻み付ける。

 ガチャ。 補号教官がドアノブを回すと、何の変哲もない、極めて小さな部屋だった。

 4畳ほどのタイル張り。 天井には豆球が一つ。 床の中央付近には、長細い円筒型の金具が黒光りしている。 金具のそばだけ床のタイルが剥がれており、代わりに鉄板が嵌めてあった。 
 長細い金具は何かをつなぎとめるものだろうか。 間隔を置いて2つ平行に並んでおり、しっかりと床に鋲で留められている。  
 床に嵌った鉄には把手があり、一見すると『ふた』にも見える。 どうやら取り外しができるらしいが、金具にしろ鉄板にしろ、私には用途の見当がつかなかった。

 と。 顔をあげ、暗がりを凝視している私の鼻孔を、微かな異臭がつく。 馴染みがあって、日常にあって、強すぎるわけでもないのに嫌悪感を抱かせる香り……これは……? 

 背筋が寒くなった。 自分の予想が外れることを願った。

 グイ、グイ。 

 補号教官にひっぱられるまま、部屋の中央に進む私。 補号教官がしゃがみ、私の足を広げ、2つ並んだ金具の上にのせる。 金属特有の冷たい感覚で両足が包まれた。

 ガチャン。 錠前を連想する重たい響きを伴って、私の両足は太腿から下を、伸ばしたまま床に固定されていた。 戸惑う間もなく、今度は両腕を背中に回された。 手首同士をしっかり合わせたまま、後ろ手にくくられる。 手枷だろうか、革の滑らかな肌触りがした。 両手両足の自由があっけなく奪われた。

 グッ。

 前のめりに倒れかけた私を、右手で髪をひっぱって起こす補号教官。 左手が目の前の床に伸び、鉄製のふたの把手に伸びる。 ふたは私の上半身の真下にあり、もしもふたが取り去られたら、私は下半身を床に据えられた姿勢のまま上半身を『くの字』に曲げ、顔から床下にのめりこむだろう。 もし床下に針があれば、私の顔は串刺しになる。 熱湯があれば、蒸気で大きな火傷を負う。

 ガチャ。

 私の運命など、補号教官にとって何の意味も持たないのだろう。 私の体を固定したと同様の滑らかな手際で、ふたを持ちあげる補号教官。

 ツーン……。 
 
 途端に隙間から漂う、えもいえぬ腐敗臭。 ああ、予想通りだ。 私のよく知っている臭いだ。 両手で顔を覆いたいが、手は後ろに固定されている。 せめて私は目を閉じた。 目の前にくる光景は、いずれ受け入れなければならないにせよ、今は無理だ。

 ズズズ。

 蓋が取り去られる気配。 生暖かい風にのる悪臭が、私の顔に直でくる。 髪を掴んで私の上半身を持上げていた力が、僅かに弱まる。 

「うぅ……」

 駄目だ。 目を閉じていても現実は変わらない。 声をあげて叫びたいが、助けを求めたところで誰もいたわってはくれない。 あらがうことで事態がどんどん悪い方向にいくことは、身をもって学んできた。 受け入れるしかない。 受け入れるしかない。 受け入れるしかいない。 

「……うッく」

 私は懸命に瞼をあげた。 そこには、予想通りの景色があった。


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