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ちびま○子ちゃん
【その他 官能小説】

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ちびま○子ちゃん-2

(2)

 朦朧として薄れた現実感の中で下腹部の鈍い痛みだけが出来事を伝えていた。
「ずっとここにいていいからね。お小遣いもあげる」
顔を寄せた主人の煙草臭い息が吹きかかった。
「言う通りにしていれば悪いようにはしないよ」
言葉が霧のように流れていく。
 立ち上がった主人が真美子を見下ろして大きく息を吐いた。
「小さいから締まりがいい……」

 ドアが閉まったとたん涙があふれて止まらなかった。汚されたショックもむろんあったが、最後の呟きが屈辱となって巻き上がった。
『小さいから締まりがいい……』
自分が物として扱われたようで悔しさに泣けてきたのである。
 そして、母のこと。……
(そんな関係にあったなんて……)
想像すると体が熱くなり、拳を握り締めた。しばらくすると力が抜けていった。
 悲しかったが責める気にはなれなかった。女手ひとつで子供に惨めな思いをさせないように育てるには止むを得なかったのかもしれない。
「大学行きたかったら行ってもいいんだよ」
いつか母が言ったことがあった。父親の養育費などまったくなかった状況を知っていたし、そのつもりもなかったから笑って済ませたが、母は本気だったのだろう。
(幸せだったのだろうか……あの男に抱かれて……)
そんなはずはない。フェリーに乗ろうかと言った時、母はきっと郷愁に揺れていたにちがいない。
(辛い想いもあっただろう……)
想いを馳せると居たたまれなくなった。


 卒業式が済んでから出るつもりだったが、待ってはいられなくなった。主人が頻繁に忍んでくるのである。鍵をかけて中には入れなかったがこのままではいつ乱暴されるかわからない。何度かすれ違いざまに抱きすくめられたこともあった。

 女将さんには旅館を出る決意だけを伝えた。
「親戚の所に行きます。お世話になりました」
伯父のところへ身を寄せるつもりはなかった。納骨は頼んだけれどあまりに疎遠でいまさら訪ねることなどできない。
 女将さんは理由も訊かず、しばらく項垂れていた。
(わけを知ってる……)
真美子はそう思った。
「早いほうがいいんだね?」
「はい……」
もしかしたら、母とのことも知っていて、ずっと胸におさめていたのかもしれない。

 卒業証書は伯父の家に送ってもらうことにした。担任も親のいない事情を知っている。
 思い出の物はたくさんあったけれど、リュックと2つのバッグに詰められるだけ詰めて、あとは処分するしかなかった。行く当てがないのだから仕方がない。
 10年もいればけっこう物はある。しっちゃかめっちゃかの衣類を整理しているとドアがノックされた。
(鍵をかけてない)
咄嗟に身構えると女将さんの声がした。

「真美ちゃん。捨てる物があるならうちでやっておくから。片づける時間ないだろう」
「なんか、いっぱいあって……」
「いいよ。捨てられないものだったらとっておくし。いつでも取りにおいで」
「すいません……」
女将さんはそっと目頭を拭って、白い封筒を真美子に差し出した。
「これ、少しだけど、お母さんの退職金として受け取って」
「そんな……」
「こんなんじゃ申し訳ないんだけど……」
女将さんは顔を歪めて出て行った。
 100万円入っていた。社員でもない住み込みの子連れの仲居である。やはり……。
(女将さん……)
彼女の苦悩がその封筒に染みている気がした。

 母がこつこつと蓄えてくれたお金があった。それに100万円。おかげで仕事探しの旅ができた。仕事は仲居と決めていた。
(母が命をかけた仕事……)
大袈裟だが、結果的にそういうことになる。自分を育ててくれた仕事……それしか浮かばなかった。

 人に身長を訊かれると真美子は「145」と答える。実際は少し欠けるのだが、気にはしていないつもりでも少しでも大きく言ってしまう。
 そんな真美子が両手にバッグを下げると地面に引きずりそうになる。それに大きなリュック。誰が見ても子供に見える。宿泊するにしても家出をしてきた少女かと疑われることもあった。そんな時、住民票と戸籍謄本が役に立った。
 旅館を出る数日前、
「とっておいたほうがいいよ。ここに住んでることにして。住所はいつでも移せるから」
女将さんに言われるまま役場に行ったのだが、あとになって女将さんはすべてを読んでいたのだとわかった。
(親戚のところに行くのが嘘だと察していた……)
住所不定では簡単に雇ってくれないことを見越して配慮してくれた。……

 真美子は東伊豆の温泉ホテルで仲居となり、一年ほど勤め、以後、転転と職場を変えた。長くて二年、短い時は半年も経たずに辞めた。伊豆から湯河原、箱根、その後は富士山から離れて関東の奥に向かった。
 辞めた理由は男である。恋愛ではない。強引に体を求められたのだ。言いなりになったことはない。一度だけ、「好きだ」と言われ、旅館の息子に許した。でも、興味だけだったのだとわかった。
「へえ、初めてじゃなかったんだ。子供みたいな体して、やることやってんだな」
思いやりのかけらもなかった。

『住み込み』が気安さを生むのかもしれない。それに『流れの仲居』は軽く見られる傾向がある。勤めるうちにわかってきた。寮に入ったこともあったが、個室ではなく、煩わしくて自分には合わないと思った。
(小じんまりしたところがいい)
 真美子はこの清水旅館に二泊して係の仲居に訊ねたり、館内を見て回った。部屋数は十二部屋、落ち着いた和風旅館である。ご主人はすでに亡くなっていて老いた番頭と女将さんで切り盛りしている。跡取りの息子がいるらしいが、蔵王の旅館に修行に行っているという。調理場にもギラギラした人はいないようだった。
(ここにしようかな……)
故郷と同じ名前の旅館名を見つめて思った。
 
 





 
 

  


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