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エスが続く
【OL/お姉さん 官能小説】

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1. Someone to Watch over Me-12

「苦手なんです」
「キャバクラ? 可愛い子いっぱいいるんでしょ?」
 揺れる冷酒の水面を眺め、暫く間を置いたあと、
「……というか、か、可愛い子と話すのが、です」
 と聞こえてきた。悦子が笑いながら、
「可愛い子が苦手って、そーんなドーテーみたいなこと言っちゃって――」
 平松の方へ顔を上げると、悦子の言葉に平松は頬の普段赤い部分を広めて目線を落として逸らした。悦子と同じペースで飲んでも顔が赤くならない。恐らく酒が顔に出ないタイプなんだろう。ということは、頬が赤いのは別の理由だ。
(……ありゃ、地雷踏んだ?)
 酔っ払った中でもセクハラを働いてしまったかもしれないことに気づいた。ごめんの言葉と一緒に訂正申し上げなければならないところだったが、確かに平松の風貌だと女にはモテなさそうだ、納得、と良からぬ悦子の直感がそれをさせず、
「……マジ?」
 と追い打ちの言葉をかけてしまった。平松が黙りこむ。
「えー、ほらー……、合コンとかさ、ナンパとか、そういうのあるじゃん」
 思ってはいけない、いけないと思うと余計に行かなさそー、しなさそー、と思えてくる。
「え、……あ、まぁ、はい」
 口ごもった曖昧な返事が聞こえてきた。
「女の子と付き合ったことは?」
 ここまで聞いておいてあるわけない、ということは分かっている。
「ありません……」
 酒で勢いがついているとはいえ、つけすぎだ。さすがに上司としてこれ以上ほじくったらセクハラかつパワハラかもと思ったから、
「そっかぁ……。理想高すぎなんじゃないの?」
 と、美穂と飲んだ時に言われたのと同じ言葉を向けた。「どんな子が好きなの? 芸能人とかさ、そういったので言えば。私は……」
 悦子の中では伝説となっている格闘家の名前を上げた。
「グレイシー柔術の人ですね」
「えっ! 知ってるの!?」
 今まで同意されなさすぎて、てっきり平松もキョトンとするのだと思っていたから、悦子は飛んで起き上がった。
「はい。6連覇でしたっけ……。それだけの人だと、人間的にも優れてますよね」
「そう! そうなのよっ! もう、超カッコいいのっ! サムライよっ、サムライ!」
 近くで飲んでいたサラリーマンのオジサンが、何事かと思うほど悦子のテンションが上がった。そのまま悦子の憧れの格闘家のデビューから引退、そして今は母国で道場を開いて人間教育を含めた育成に当たっていることを全て話そうとして思い留まった。ちがうちがう、今は平松の話を聞く場だ。
「まぁ、さ。平松くんもいるでしょ? そういう憧れの人っていうか、理想のタイプ」
 小さく咳払いをして訊いた。せっかくデキる上司と言ってくれた部下の手前、あんまりテンションが上がってドン引きされるのも悲しい。
「ええと……、多分、ご存じないと思います」
「いいじゃん、言ってみ?」
 悦子の理想のタイプのマイナーさ加減に気が楽になったのかもしれない、平松がおずおずと言った。
「……九重彩奈」
「えっと……」
 知らない。悦子はバッグから携帯を取り出してウェブ検索サイトを開きながら、「こ、ここのえ、あやな、……どんな字書く? 総選挙で何位くらいの子?」
 と検索し始めた。なんたらかんたらとかそういうグループあんまり知らないからなぁ、と検索結果を見た。言葉に詰まる。悦子の表情を見て、また平松が俯き加減になった。
「……ゲーム?」
「はい……」
 検索結果の一覧からすぐに分かった。悦子には全く造詣のない、恋愛シミュレーションゲームのキャラクターだった。画像もヒットして開いてみると、ピンクの髪のポニーテールで清楚な制服姿の女の子が微笑んでいた。
(目もオッパイもでけー。……てか、こんなに体細くて巨乳って、肩凝るどころか折れちゃうよ)
 なるほど、こういう方面の人だったのか。いや、いかんいかん趣味は自由だ。上司としては部下の趣向を理解してやらねば。
「ふーん……、どういうとこが好きなの?」
 顔を見られると話しにくいだろう。悦子は解説サイトをスクロールさせて基本情報を読みながら訊いた。主人公は転校生。学校には気になる女の子がたくさんいる。なるほど夢のような世界だな。そして彩奈ちゃんという子はクラス委員、転校初日の登校に主人公との間に事件があり、教室で「あっ、キミは」「あーっ! あなた今朝の!」と。以来、お互い意識し合っているのに、面と向かうとどうしても強がっちゃう。だんだん卒業が近づいてきて、お互いの気持ちを打ち明けなければ離れ離れになってしまうのに。はい、だいたい、わかりました。
「……何て言うか、皆に頼られてて、意志が強くて、でもちょっと弱い部分もあって……」
「そっか。この子、全キャラの中で一番人気なんだね」
「はい、ダントツです」
 ファンを標榜するブログや同人作品が多いこと多いこと。ん? 何かこのゲームのイベントやってたんだ。そのイベントの初日は、平松が悦子の元に配属された日だった。なるほど、このイベントに行きたかったんだな、彼は。そりゃ、私と部長の前では言えないな、言っても絶対行かせなかったけど。


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