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エスが続く
【OL/お姉さん 官能小説】

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1. Someone to Watch over Me-11

 用を済ませたあと、手を洗いながらトイレの鏡で自分の顔を見た。頬が赤いのは酒のせいですよ、と何故か自分に言い訳をしながら、一人になって改めて今日まで平松の勤務態度がそうなってしまった理由を考えようとしなかった自分を悔いた。ちゃんと話を聞いてやればよかったと思う。皆の前で泣かせて恥をかかせたのは自分のせいだ。
 どこか話の流れの中で謝ろう、と思いながら出てすぐのところで、部長に出くわした。
「あ、どうぞ」
 自分が使った直後を部長に使われるのは、部長がどれだけイイ人でも嫌だったが、男女兼用のトイレだから仕方がない。
「……ゴンちゃん、俺トイレ済ませたら帰るよ」
「じゃ、もうお開きですか?」
 ちょっと早いんじゃないかな、と思ったら、
「いやいや、ここからはゴンちゃんが一対一で平松君と打ち解ける時間さ」
 と部長が言う。
「えっ……、ちょ、そんな、いきなり放り出さないでくださいよ!」
 奥まったトイレ前のスペースで、平松からは見えないが、声を聞かれたら困るから小さい声で訴える。
「いつまでも部長が居たら言いたいことも言いづらいだろ? こう見えても査定者だからねぇ、ワタクシ」
 おどけた口調で、目線を見えないはずの平松に向けて、「まあ、彼もまだ言いたいことがあるかもしれないし、ゴンちゃんに聞きたいことがあるかもしれない。もう少し飲んでコミュニケーション取ればいいさ。だいぶん口も緩んできたろ?」
 言った後、ぶるっ、と震えて、歳のせいでユルくなってるんだ、漏れる漏れる、と悦子をよけてトイレに入ろうとする。セクハラだなこのオヤジ、と思いながら、
「部長」
 と呼び止めた。「……ありがとうございました」
「話ってのは聞いてみるもんだろ?」
 部長はドアを閉めつつ滑稽なウインクをした。
 暫くして戻ってきた部長は、かみさんからメールが来た、おかんむりだ、と言った後、
「キミらはもうちょっと飲んでたらいい」
 と若干態とらしく言って、財布から一万円をテーブルに置いた。
「あっ、部長……」
 単価が高くない居酒屋だから明らかに多い。すまん、細かいのないんだ、かみさんに怒られる、急げ急げ、と部長は言って慌ただしく帰っていった。平松と二人残された。すぐに部長の帰り際について何かコメントを言えば話がつながったのかもしれなかったが、タイミングを逸してしまって、暫く無言の時間が続いた。
「……飲む?」
 沈黙に耐えかねて、あと数口でなくなってしまう平松のジョッキを指さして聞いた。
「あ、はい……」
「ビール? 私ちがうのにしよっかなー……」
 ドリンクのメニューを見ながら、殊更に明るい声で言った。「……日本酒にしよ」
 メニューを平松に差し出すと、
「じゃ、同じのにします……」
 と言う。
「おっ、付き合いいいじゃん」
 まぁちょっと強めの酒入れて、酔った勢いで話そうっと。悦子が店員のオバサンに冷酒と猪口を二つ頼む。持って来られた冷酒の瓶の蓋を開けようとすると、
「あ……」
 と言って平松が手を差し出してきた。手渡すと蓋を捻って開けて、どうぞと傾けてくる。何だか上司と部下らしいと注いでもらった後、注ぎ返してやりながらしみじみと思った。猪口を掲げて、あ、今謝ろうかな、と思ったところで被せるように、いただきます、と平松が言うから言葉を飲み込みながら冷酒を啜った。
「……それにしても、ヒドいよね、相模原のヤツら。私も嫌いなんだー」
 女上司が若手にクドクドと愚痴を垂れる。良い光景ではないことを悦子は忘れて、自分の中に薄っすら漂う平松と二人で話す気不味さを緩和させようと、今まで仕事をしてきて相模原の連中に味わされた悪エピソードを話していった。こんなこともあった、と次々と出てくる。話しているうちに詳細を思い出してきて、本気で腹立たしくなってきた悦子は猪口に口を何度もつけながら話し続けた。平松は悦子の話を聞きながら、時々頷いたり、相槌を打つ。そうそう、そういうリアクションが欲しかったんだよ、前から。
「アイツら男ばっかで働いてるじゃん? だから毎日のようにキャバクラ行ってるらしいの。バカだよねぇ〜」
 冷酒が体に染みこんでくると、だんだん悦子も目が充血して瞼が重くなり、ついでに体も重くなって、テーブルの上に肘を付いて顔に落ちてくる髪を何度も掻き上げた。美穂と飲んでいるのならばいざしらず、冷静ならば部下相手には見せられない見苦しい酔っぱらい姿に崩れていく。
「平松くんも誘われたでしょ?」
「……はい、そうですね。……断れなかったです」
「断る? ……平松くんはキャバクラとか行かないんだ?」
「……はい、ぜんぜん行きたいと思いません」
「へぇ、なんで?」
 冷酒を空けると平松が注ぐ。悦子の話に付き合いながら、平松も同じペースで冷酒を飲んでいる。アルコールが回ってきて注ぎ返しを忘れてしまっている悦子に構わず、自分のぶんは自分で猪口に注いでいた。


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