指嗾-10
「んっ……」
唇が触れた瞬間、声が漏れた。さっきよりも厚めにはんできて唇を挟まれる。ジョゼの手が体の前に回って二の腕を持つと少し自分の方へ引き寄せてきた。もうクロスはない。輝子はチェアの上で身を心持ちジョゼに向けて捩ると、腕をあげてジョゼのシャツの袖を掴んだ。少しだけ触れるキスでもいいからして欲しいと思っていた。だがジョゼは一度目よりも長く、唇の表面を潤わせながら触れてきてくれる。想像以上に芳しい時間に輝子は全身が溶け落ちてしまいそうだった。涙が頬をすべり落ちていく。これは何の涙なんだろう、輝子自身わからなかったし、その理由を考えるよりもジョゼの唇を吸っていたかった。口内に溢れてきた唾液が接面から溢れ落ちそうになって、必死に分泌を押しとどめようとしていると、糸を引きながらジョゼが唇を離した。だがまだその高い鼻先が触れ合うほど近くにいる。
「……、お、お姉ちゃんとも、こんなのしてる?」
潤んだ薄目でボヤける姉の恋人の顔を見ながら輝子は問うた。
「そりゃ、付き合ってるからね」
「うん……。だよね」
「……愛里菜としてるときみたいに、してみようか?」
聞いた瞬間湧き起こった姉と同じように扱われる嫉心を、姉と同じように扱われたい渇求のほうが上回った。頷いた輝子の上唇を、ジョゼの唇から差し出された舌先が一瞬なぞる。舌で唇を突かれる初めての感触に打ち震えていると、今度は下唇を弾かれた。意図を察した輝子が、おずおずと舌を口外へ差し出すと、ジョゼの長い舌がそれを絡めとり始める。
「あぐっ……」
変な声が出て恥ずかしくなった。だが舌に先端が絡みつくピチャピチャとした音が聞こえてくる度に、輝子は我慢しても声を抑えることができなかった。最早体は完全にジョゼへしがみつくようにチェアの上で膝を折ってスニーカーの底を縁に置いて身を小さく畳んでいた。デニムミニから伸びる脚を擦り合わせる。スカートの奥から甘く熱い疼きが滑りとなってショーツを汚しているのが分かった。生まれて初めての潤しくも恥ずかしい感触だった。
「……せっかく、愛里菜より先に経験しようとしたのに、邪魔されたんだね……」
唾液に塗れたキスを見舞わせながらジョゼが囁く。
「んっ……、そ、そうだよっ……。お、お姉ちゃんがっ……、い、挿れようと、してたのに、部屋に来たっ……」
頭の中が茫漠と融けだしていたから、冷静ならば言えないような直截な表現で恨み言を言った。「お姉ちゃんより、先に……。処女やめたかったのに」
ジョゼの大きな手が、輝子の二の腕を離し、胸下まで開いたパーカーの前から中へ入って脇腹へ添えられた。指先に絶妙に力を込めて、体にフィットしたTシャツごしにばらばらに圧迫しながらバストの方へ昇ってくる。
「んあっ……、や……」
「俺がしてあげよっか?」
遂にジョゼの囁きが聞こえてきて、さすがに躊躇した。
「わ、わたし……、ヤッたら、イ、インコーだよ」
「淫行でも、カワイイ中学生なら……、したいさ。輝子ちゃんなら、俺、危ないヤツになっちまう」
ジョゼの「可愛い」がもう麻薬のように輝子を蝕んでいた。言われる度に頭が痺れてジョゼの方に誘われてしまう。唇を吸われていたのと同じ感触でカットしたばかりの髪から覗く耳へキスされてから囁かれた。「していい?」
すぐに承諾をしそうになったが、しがみついている男の素性を思い出した。
「……お姉ちゃんとも、し、してる?」
「もちろん。付き合ってるからね」
「お、お姉ちゃん……、ど、どんな風にしてるの?」
輝子の言葉に耳から顔を離したジョゼが真上から輝子を覗きこんできた。潤んだ瞳で真顔で見上げる輝子に、何故か微笑ましい顔を向けてくる。
「……そりゃ、エッチだからね。……エッチになってるよ」
「お姉ちゃんが、そんなふうになるの? うそだ……」
姉がジョゼの前で淫らになるなど、普段接している姉、メディアで登場する姉からは想像もつかなかった。
「なるさ」
ジョゼがパーカーのファスナーを最後まで下ろし、袷を左右に開くと両手でTシャツの裾から手を入れて腰を掴んだ。指が肌に直接触れて、やっ、と言って輝子は身を捩った。膝を立てた太ももを擦り合わせて堪えようとしている輝子を見つめながら、「今の輝子ちゃんみたいにね」
「わたし、そんなヤラしくない……」
「そお?」腰の肌を撫でていた両手が、Tシャツを捲り上げながら脇腹から胸の膨らみの直下まで撫でてくる。「……愛里菜は、かなりMだよ。普段チヤホヤされてるからかな」
「んっ……、やっ……、え、えむ……?」
首の下までTシャツを捲り上げられて下着を露にされた恥ずかしさに身をくねらせながら伺った。
「そう。……恥ずかしいことされたり、激しくされると、おかしくなるほど感じる。いつも周りから大事にされてるから余計にオモチャのように扱われると感じるんだ」