久-1
「中野さん」
帰り際、会社のエントランスで後ろから声をかけられた。
振り向くとお昼に会った大久保さんだ。
「何でしょう?」
「あがり?俺もあがるから飲みに行かないか?」
少し考えて返事を渋っていると
「深く考えなくていいから。美味いもんでも食べに行こうぜ」
そういってエントランス横の応接セットを指差した。
「帰る支度をしてくるから。あそこで5分待ってて」
「・・・・はい」
「絶対帰るなよ?すぐ来るから」
そう言って走ってエレベーターで消えた。
深く考えなくていいから。か。
昼間もナンパじゃないって言ってたし。
美味しいものでも食べに行きたい気分だったし。
先輩と食事。って感じでいいのかな。
そんなことを思いながらソファーで座っていると
受付の仕事を5時に終えた茜が私服に着替えてエントランスに出てきた。
「あれ?美緒。誰かと待ち合わせ?」
「ん・・・大久保さんと」
「大久保さんっっ!」
茜・・・
声が大きいよ。
「なんで?なんで?昼間初めて会ったのに大久保さんとデートすることになってるの?」
そんなに興奮しないで。
「今帰ろうとしたら、大久保さんも帰るところだから
美味しいものでも食べに行かないか?って声をかけられたの。
あ。茜も行く?」
そう聞いたら大きくため息をつかれた。