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プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

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B-3

「…ったく、この野郎!何時間かかってんだボケ!」
右手に持っているそのトングで突き刺されるんじゃないかという勢いでオーナー…佐伯に怒鳴られる。
湊は「スンマセン!」と大声で謝って左手のフライパンを煽った。
今日の佐伯は機嫌が悪い。
ただ歩いているだけの人にでさえ手を出しそうな勢いだ。
無性にイライラする。
しかし態度に出してしまえばこちらの負けだ。
冷静を装い、皿にパスタを盛り付ける。
「料理出まーす」
湊がそう言うと、ホールからスレンダーなバイトの女の子が早歩きでやって来た。
「未央ちゃんこれお願い」
パスタが盛られた皿の底に伝票を挟む。
「はーい」
料理と伝票を手に取り、未央はホールへ向かって行った。
やっと全ての料理が出た。
ふぅと丸まった息をつき、湊は洗い場に山盛りになった皿を片付け始めた。
「…さん」
ジャージャーと水の流れる音がする。
ぼーっとしながら明日の事を考える。
「五十嵐さん!」
「…あ?」
声のする方を見ると、そこには未央が立っていた。
「あたしそれやりますよ」
「いーよ。オーダーもうねーし」
「仕込みとかあるんじゃないですか?」
「足りてる。…つーかそこ入ると佐伯さんに怒られんよ」
「大丈夫ですよ」
未央はくしゃっと笑うと「洗い物はよくやらされてたんで」と言って、半ば強引に湊を押し退けて洗い物を始めた。


彼女は自分がここの店に来た時、既にバイトとして働いていた。
何年かと聞いたら「年とかじゃないですよ。3ヶ月くらいです」と同じ笑顔で言われたのだ。
ショートカットの美少女という言葉が似合うくらい、整った顔の子だ。
今年ハタチになったばかりらしい。


「未央ちゃんさ、わりかし仕事できるよね。前もなんかバイトやってた?」
「はい、焼肉屋のホールで」
「ふーん」
湊は鼻で返事をし、カウンターに乗った空き皿を手に取って未央が洗い物をしてくれている流し場に置いた。
「他にも色々やってました。うどん屋さんとか、ピザ屋さんとか!」
「へー」
「五十嵐さんは、どんなバイトしてたんですか?」
「んー。高校卒業まではレストランでキッチンやっててさ。それからは居酒屋だよ」
「そーなんですか!ホールですか?」
「いや、居酒屋でもキッチンだよ。忙しい時はホール出てたけど」
「そーなんですね!…だからか」
未央が手を止め、湊を振り返る。
「あ?」
「だから、料理出すタイミングも分かってるんですね!」
未央は目を輝かせて言った。
その瞳に、吸い込まれるんじゃないかとさえ思った。
「どゆこと?」
平静を装う自分がいる。
「自分の料理の出すタイミングだけじゃなくて、ホールも見てるでしょ?五十嵐さん。分かってますよ」
未央は「でも焦りすぎじゃないですか?」と笑いながら続けた。
それは自分が思っていたスタイルだ。
でも、自分だけじゃない。
このテリトリー…店を回している全ての人間が、上手く動けるように、そして遅れや失礼のないように客に料理を提供するのが自分の役目なのだと湊は思っていた。
…それを焦りすぎ、と笑われたのならば…。
怒りを全面に抑え、業務的な笑みを浮かべる。
だが、無理だ。
生粋のキレ性がニョキニョキと角を出す。
「キッチンにしかわかんねーんだよこのプレッシャーは。お前らはただ運んでるだけだろ?そんなんが偉そーに言ってんじゃねーよ!」
地面に放り投げたトングの音が鼓膜の奥深くまで入り込む。
未央は黙った。
かなり怖気付いている。
「……ごめん」
湊はトングを拾って乱雑に洗い場へ投げ込んだ。



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