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プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

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A-4

翌日も陽向は下島に怒られっぱなしだった。
「風間!ったくてめーは!こんなこともできねーのかよっ!」
持っていた紙で頭を叩かれる。
これはパワハラだと訴えてやりたい。
他人にこんなに怒りを覚えたのは初めてだ。
関わりたくないと思い、患者さんのベッドサイドに逃げる。
「今野さーん…」
「はーい」
昨日危うく車椅子に乗せてしまいそうになった今野さんは、今日からリハビリが始まりようやくベッドから降りられるようになった。
「あらー。また検査?」
「あははっ、違いますよー。ちょっと点滴見ますね」
そう言って陽向はさっき確認したばかりの滴下をまた確認し始めた。
「大変ねー。そんなに頻繁に見なくちゃいけないの?」
まさか下島から逃げてきたとは言えない。
痛いとこを突かれ、返答に困る。
「あー…新人なもんで…」
「えっ?新人さんなの?」
「えっ?そーですよ」
「そーだったのねー。そんな風には見えなかったわ」
「ホントですかー?!」
陽向はケラケラ笑って今野さんを見た。
「だって風間さん、しっかりしてるんだもん」
「あははっ…そんなことないですよ」
謙遜はするのもも、やっぱりそう言われると嬉しいものだ。
「新人さんじゃあ、大変でしょ…。ほら、怖いじゃない…なんだっけあの人…。あ、そうそう、堀越さん」
堀越さんは、4年目の中でも一番怖い先輩だ。
陽向よりも背が低く、あの一重の目で下から見られると背筋が凍りつく。と言う噂だが、今のところ関わりはない。
「堀越さん……そうですか?」
「怖いわよー!隣の人がいっぱいナースコール鳴らしてたみたいで、昨日の夜勤の時にかなり怒ってたのよー。こっちが怯えちゃった!」
今野さんは笑いながらそう言った。
堀越と絡みがないため想像がつかないが、患者さんからもそう思われるということはスタッフに対しては相当お厳しい人なのだろう。
今野さんと話していた時、もう少しで報告の時間だと言うことに気付き、陽向は挨拶をしていそいそとナースステーションに戻った。
チームのパソコンの前に立ち、情報用紙を探していると、下島がやってきた。
「おっせーよ風間!どこ行ってたんだよ」
「すいません、今野さんの点滴を見に…」
「点滴見んのに何分かかってんだよ!早く送り行くから…言うことまとまってる?」
「あ、ハイ」
報告の内容を下島に話すと、案の定、あーでもないこーでもないとダメ出しの嵐。
終いには「どこ見てんだお前」と罵られる。
すいません、と謝れば「すいませんじゃなくてさ」と否定される。
陽向と下島のやり取りを聞いていたのか、斜め前のリーダー席に座っている瀬戸が「風間、早くして。下島はもう聞かなくていーから。俺が直接聞く」と静かに言い放った。
瀬戸にもなんやかんやと言われるのか…と思いながら、テンションガタ落ちで報告に行く。
「お前向こう行ってろ」
「いや、でもフォローですし…」
「いーから」
「……」
下島のフォロー無しで瀬戸に報告するのは怖すぎる。
陽向は小さい声でブツブツと話し始めた。
瀬戸は黙って聞いていた。
ここが分からないと聞けば、優しく教えてくれた。
「はい、お疲れ」
「え?」
「終わりだろ?特に指示もなんもねーよ。休憩行けんの?」
「あ…点滴見たら行けます」
「あそ」
報告はあっけなく終わった。
こんなんで良いのだろうかと疑いたくなる。
ビクビクして損した…。
ラウンドしてステーションに戻って来た時、瀬戸の怒鳴り声が聞こえて来た。
相手は下島だ。
「お前が出来てねーのに言える資格あんのかよ!怒鳴るだけのフォローだったらいらねーんだよ」
あたしの話…?
下島は何も言わず、地面を見ている。
陽向はその場にいたくなくて、逃げるようにして休憩室に入って行った。

午後の下島は、瀬戸にガツンと言われたためか、陽向に罵声を浴びせることはなかった。
それはそれで助かるが、なんだか調子が狂う。
しかし勤務後の振り返りの時は近くに瀬戸がいないことを良いことに再びあの口調で「バカ」だのなんだの言うのだった。
更衣室に戻った時、ありえないほどの疲労感に襲われた。
ノロノロと着替えて更衣室を出ると瀬戸と鉢合わせた。
「あ…お疲れ様です」
「おう、お疲れ」
そのまま「じゃ」となるのかと思いきや、駐輪場まで一緒に行くことになってしまった。
無言で瀬戸の隣を歩く。
「今日はマジお疲れ。…あ、昨日もか」
瀬戸はケラケラ笑って陽向を見た。
病棟ではいつもマスクをしているので、普通の顔を見るのはなんだか新鮮だ。
黒髪で短髪の、爽やかといった言葉がよく似合う人だ。
「あはは…あたし、全然仕事出来ないんでいつも怒られっぱなしで…。下島さんにも色々と迷惑かけちゃって…申し訳ないです」
「いやー。まだ受け持ち始まったばっかだからさ、しょーがねーっしょ。出来てたら逆に困る」
陽向は「そーですよねー…」と呟いた。
職員の出入り口から出て、瀬戸に挨拶する。
「今日は、ありがとうございました」
「ははっ。俺、何かした?てか明日も日勤?」
「はい」
「そっか。頑張ってな。そんじゃー」
「お疲れ様です」
瀬戸の背中を見てため息をつく。
やっぱりまだ慣れないな、病棟の人と話すのは…。


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