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プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

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A-3

翌日の受け持ちは原さんともう1人、昨日HCUから心不全で上がって来たばかりの今野さんだった。
心不全について少しは調べてきたつもりだ。
よし、やるぞ!と気合いを入れて来たはいいものの、やはり調べたと言っても「つもり」でしかなかった。
「風間さーん!」
「はいっ!」
トイレから患者さんを部屋に連れて行こうとした時に、病棟の受付の井上さんに呼ばれる。
「今野さん、レントゲンに呼ばれたんですけど…」
「あ、はい」
「車イスで連れてっても大丈夫ですか?」
「大丈夫です!」
勢い余って言ってしまったことを後悔した。
「おい風間!」
「へっ?はい!」
「今野さんまだベッド上安静だろ!ふざけんなよ!」
「あっ!!!すみません……。ベッドでお願いします…」
朝っぱらからヘマをやらかしてしまった。
しかもよりによって、仕事はできないくせに口だけは達者で面倒臭いと言われている下島玲子のフォローの日に。
「お前この人のことちゃんと見てんのかよ?!情報とってないの?」
「いや…とってます」
ガミガミ怒られ、朝から気分が悪い。
それを皮切りにその日は怒られっぱなしだった。
情報の取り方から「お前の紙、きったねーな」とダメ出しされ、萎えた。
こんなに性格の悪い輩がフォローだと自分まで荒んでいきそうだ…。
完全に萎えたのが顔に出ていたのだろうか。
「なんだよその顔」
と、怒られる。
それを言われて更に萎える。
悪循環だ。
下島とのいざこざを見ていたのか、楓に「陽向、顔が死んでるよ」とコソッと言われた。
楓とはチームも同じになり、今日は同じ勤務だ。
楓のフォローの先輩は6年目の高橋美香さんだ。
自己紹介の時、綺麗な人だなーと思ったのを覚えている。
「はは…」
「今日終わったらご飯食べ行かない?」
「うんっ!行く!行きたい!」
「がんばろ」
楓はニッと笑ってステーションから去って行った。
今日は楓にグチを聞いてもらおう。

振り返りの時、下島に「おめーはすぐどっか行くし、帰ってこねーし、ピッチ出ねーし…」と、散々怒られた。
すぐ側で記録をしている先輩たちが横目でチラチラとこちらを見ている。
「聞いてんの?!」
「はい、聞いてます」
「だからさぁー、もっと周り見ろよ」
「はい、すみません」
今日の勤務で、下島玲子を本気で嫌いになってしまった。
返事もテキトーだ。
そんなひねくれた自分も嫌いだ。
こんな先輩なんかにはなりたくないと心から思ってしまう。
長々と下島の演説のような振り返りと言う名の説教を終え、くたびれた顔でパソコンに向かう。
「できねークセに偉そーに。あいつの事なんか気にすんなよ。明日もあいつがフォローっしょ?」
隣で記録しながらそう言って来たのは、今日のリーダーだった瀬戸薫だった。
「…はい」
「あいつに聞くなら俺に聞け」
「えっ…でも…」
「ムダな1日過ごすぞ。…はい、お疲れー」
そう言い放ち、瀬戸は病棟から去って行った。
そんなこと言われても…。
陽向は明日の事を考えながら、残りの記録をノロノロとやった。

「あの人だけは、本当に無理」
「陽向がそんなこと言うなんて珍し」
近くのファミレスで、楓と仕事について語り合う。
こんな世界一つまらない話なんてしたくもない、と思うがグチは止まらない。
「明日も下島さんだよ…またぐちぐち言われる…」
「悲惨だったねー、今日。高橋さんが、風間さんかわいそうって言ってたよ。下島さんって結構仕事出来ないらしーよ」
「そんな人にぐちぐち言われたくないよ…」
「ま、うちら新人だし仕方ないよね」
楓はそう言ってドリンクバーのコーラをストローですすった。
「それでなのかなぁ…」
「え?なにが?」
「今日ね、瀬戸さんに『あいつに聞くなら俺に聞け』って言われたの」
「あいつって下島さんのこと?」
「そーそー。そんなに仕事できないんだーと思って。だからプリセプターもやってないのかな」
「あははっ!そーかもね。てかあの人がプリセプターの1年とか無理!」
まだ病棟に1ヶ月も行っていないのに、こんな悪口を言っていいのだろうか。
でも今日は本当に残念な1日だったと思う。
他人に呆れられてる先輩に見てもらい、勤務後には「かわいそう」と哀れまれるのである。
下島がどれだけの事をやらかしたのかは知らないが、明日もそんな先輩と一緒だと思うと憂鬱だ。
冷めかけのオムライスを見て陽向は溜息をついた。
ここ最近、溜息をついてばかりだ。
だから幸せが逃げるのかな。
「陽向〜。さっきから溜息ばっかだよ」
「だって…明日も下島さんなんだよ?!」
「御愁傷様です」
「楓もなってみれば分かるよ、このストレス!」
「見てるだけでお腹いっぱいだわ」
「もうっ…」
この先ちゃんとやっていけるのだろうか。
そんな不安しかない。
早くこの状況から脱したい。


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