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プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

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A-5

金曜日のフォロー者は高橋さんだった。
6年目の、看護にアツい優しい先輩だ。
陽向は朝、ホワイトボードを見て愕然とした。
重症患者が受け持ちについているではないか。
やばい…。
陽向は急いでパソコンに向かい、患者さんの情報を取り始めた。
申し送りの10分前、高橋さんと今日の行動計画について話す。
「風間さん、今日3号室の患者さん受け持ってるでしょ?」
「はい」
3号室の患者さんが、重症の患者さんだ。
心不全が悪化し、いつ亡くなってもおかしくない状態だ。
「情報とれた?経過長いから大変だったと思うけど、勉強するにはいいと思ってつけたんだけど…大丈夫そう?」
「はい…。あ、吸引する時とか、処置とか、一緒に見て頂いても良いですか?」
「オッケー、オッケー。じゃあやる時呼んでね」
「はい、お願いします」
簡単な話をし、申し送りが始まる。
「4月25日金曜日、夜勤から日勤に申し送りを始めます……」
今日は金曜日か…。
もうすぐ湊に会えるんだ。
顔がにやけそうになるが、重症者の送りが始まったため、陽向は頭を切り替えてボールペンでメモをとり始めた。

大切な用事がある日に限って事件は起こる。
午後、受け持っていた検査入院の患者さんの点滴を挿入する腕を間違えるというインシデントを起こしてしまった。
発見者はフォローの高橋さん。
勤務後に高橋さんと今日の振り返りをする。
「何で間違えちゃったの?」
「…情報がちゃんと取れてなくて」
「どこ見てたのよ…」
20分もインシデントのことについて振り返りをする。
もう、帰りたい…と思うが、今度は今日の行動についての振り返りだ。
「今日、出来たことは?」
「えと…吸引と、処置と、点滴管理と…」
今日の行動については40分も振り返りをしてしまい、気付いたら20時になっていた。
「でも…インシデントしちゃって……。ほんとに…すみません」
自分が嫌で、悲しくて涙が溢れてくる。
この泣き虫癖をどうにかして直したい。
けど、無理だ…。
「なんで泣くのよ、もー…」
「ほんとに…ごめんなさい」
「まー、インシデントは……。でも、今日は朝にちゃんとあたしに声掛けられてたし、やる時だって呼んで質問とかも出来てたし、ちゃんと勉強出来てるから」
周りにいた先輩が「どうした?」と小声で呟く声がする。
でも、そんなのどうでもいい。
これでもかというくらい、涙がとめどなく出続ける。
「次、同じ失敗しなきゃいいんだから。ちゃんとリーダーさんと振り返るんだよ」
「…はい」
高橋さんの次は、今日のリーダーとインシデントの振り返りだ。
何がいけなかったのか、どうすればよかったのか、次に同じ失敗をしないために自分なりにどう対策をするのかと責めたてられる。
今日のリーダーは、患者さんからのウケが悪い堀越だ。
「泣いてちゃ分かんないんだけど!」
泣き出してしまった今、泣くなと言われてももう無理だ。
陽向は思いつく限りの対策を言ってみたが、それに対して堀越から片っ端からダメ出しされた。
じゃあどーすればいいの!と、心の中でブチ切れる。
30分の振り返りを終えた後は、インシデントレポートの入力だ。
堀越の罵声を浴びながらパソコンに向かう。
21時を過ぎた頃には、日勤の人達は既にいなくなっていた。
「これ、文章おかしくない?話し言葉じゃないんだからさー…」
涙も乾き、次第に無になっていく自分がいる。
陽向はぼーっとしながら指を動かしていた。
レポートが仕上がった時、時計は22:15を指していた。
「今度はリスク管理のマネージャーと振り返りして、その後師長に報告だからね」
「リスク管理のマネージャー…?」
「5階は南さんだから、勤務確認して自分で声掛けて振り返りの日程決めてね」
「はい…」
堀越はため息をついて「お疲れ様です」と病棟を去って行った。
それを腫れぼったい目で追い、勤務表を見にホワイトボードの方へ向かうと「大丈夫?」と同期の榛葉七瀬に肩を叩かれた。
「あ…うん」
「大丈夫そうじゃないね。あたし、明日明けだからさ、同期で飲み行かない?パーっとしよーよ」
「ごめん…明日はちょっと用事が…」
「…そっか。じゃあまた今度みんなが勤務合う時行こうよ。…元気出しなね」
「ありがと」
同期はみんなノリが良くて優しい。
オリエンテーションの時から、終わった後はよくご飯を食べに行ったりしている。
みんなと飲みたいと思うけど、こんなテンションで行ったら逆に申し訳ないと思う。
陽向はため息をついて、南と勤務が合う日を勤務表で確認し始めた。

更衣室を後にし、バスに乗る。
気付いたら駅の改札をくぐっていた。
化粧も涙で全部落ち、死にそうな顔をしたまま終電に乗り込む。
目的の駅についたのは0時過ぎ。
歩き慣れた道を辿り、着いた先は湊のマンション。
会うのは明日の約束だけど、もう0時過ぎたからいいよね?
陽向は合鍵を使い、部屋のドアを開けた。
懐かしい匂いがする。
そのままソファーに倒れこむ。
早く湊の温かさに触れたい。
もう、疲れちゃったよ…。
湊…早く帰ってきて…。
また涙が溢れてくる。
どれくらい泣いたのか分からない。
気付いたら、ソファーで深い眠りに落ちていた。


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