略取2-4
「主な仕事はワシの身の回りの世話です。もっともワシはほとんどここにはおらんので、その間は自由気ままにやっていると思います。うん、男女の件についてでした」と鼻と口から煙をはく。
「あれはもう離婚して今は独身。ワシは結婚したことがない。独身同士、何をしようが勝手、ということになるが」
うなずく以外にない。岩井は奈津子を”あれ”と呼んだ。
「なかなか詮索好きのようですな」
沙也加は唇を噛んだ。
「もっともワシはこの年齢、色恋もなかろう」笑いながらサラミとチーズを手づかみで口の中に放り込む。続いてワインを口に流し込み、葉巻の煙を吸い、くちゃくちゃと音をたててかみ砕く。
肌の艶、声の張り、立ち居振る舞い等、どれをとっても精力の減退を感じるものはない。二人は男女の仲になっている可能性もある。奈津子が岩井を求めるとは思えない。もしかしたら岩井の方から強引に関係を結んだ。そうであれば由々しき問題だ。
「夫側は離婚届はまだ役所に提出していません」
「ほう、そうでしたか」
本当に知らなかったようだ。
「それと、娘の恵さんもこちらにいたそうで」
「……」
「恵さんは沼田部長から紹介されたのでしょうか」
核心をぶつけてみた。岩井は初めて鼻白んだ顔を見せた。手応えを感じる。
「そんな綺麗な顔でにらまれたら、どんな男でも縮こまってしまうわ」
おどけるように股間に手を置き、沙也加の顔に煙を吐いた。眉をひそめ「万が一、淫行の事実がわかれば、わたしは警察に通報いたします」と沙也加は決然と言い放った。母親だけでなく、その娘とも関係を持ったのだろうか。恵の美しい顔とセクシーな腰つきを思い出す。
「ほう、淫行ですか。とすると、七十の年寄りと十五、六の少女が……」声がかすれた。軽く咳払いをして「ワシがその少女と交わった。そんなことを考えておられるのですかな。恐ろしいのう」と続けた。
岩井は恵の年齢を知っている。沙也加は岩井を見据え「はい」と答えた。
「ほう、まだワシのマラがビンビンにおっ立つと思うのか」
目を細め、葉巻をくわえる。顔は笑っていない。同じように「はい」と答えたが、急にいいようのない不安を感じた。
「いろいろと探っているようだが、所詮は女」
出されたものはひとつも手を付けず、沙也加は席を立った。
「お宅ほどの美人であれば、体を使えば何でも自由になろう。惜しいのう」
「失礼いたします」沙也加はドアを開いた。明らかに声が震えている。つばを飲み込むが、喉につかえる。岩井が立ち上がるのを背面の神経が捕らえた。本能的に身の危険を感じた。沙也加は振り向かず歩みを早めた。早くここから出るべきだ。
前方に大きな影が見えた。だれもいないアスファルトの道路で突然、猛獣と遭遇したような恐怖。足が竦んだ。振り返ると部屋から岩井がのそりと姿を現した。男たちが沙也加に近づいてくる。思わず目の前にあったドアの取っ手をつかんだ。しかしびくともしない。
奈津子の名を呼んだが返事はない。こんなことに奈津子が荷担しているはずがない。退路を断たれたことを悟り全身が粟立った。
黒人に腕をつかまれたが振り切った。しかし岩井に簡単に取り押さえられた。瞬間、脳しんとうを起こすほどの強烈なビンタが炸裂した。一撃で逆らう気力は失われた。岩井は容赦がなかった。明らかに痛みを感じる時間を考慮して間を開け、二発、三発と凄まじい平手が沙也加を襲った。両足の力が抜け、岩井の腕の中に倒れ込んだ。口の中が塩辛い味に満たされた。下半身が生暖かい。正面から岩井に首をつかまれた。苦しくて声もあげられない。サラミの強烈な匂い。
笑う岩井は黒人の胸に乱暴に押しやった。口の中は傷ついている。歯が折れたのではないかと思えるくらい痛い。涙で視界がかすむ。鼻から液体が流れているのを感じた。胃の方にも流れてくるが、喉が震えて飲み込むこともできない。黒人はうれしそうに沙也加の顔をのぞき込み、乳房をつかんだ。爪が食い込む。あまりの苦痛に悲鳴をあげた。喉がごろごろ鳴る。
いきなりスカートをまくり上げられた。胯間に手が入ってきた。ストッキングの上からなぞりあげられる。小水で指がびしょびしょに濡れたことを岩井に教えている。黒人がゲラゲラ笑いながら乳房を握りしめた。後ろから潜り込んできた指先が乱暴にヒップの肉をかき分けている。ストッキングの破れる音。痛みと恐怖で歯の根が合わなかった。