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レイジーマン
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レイジーマン-5

灰皿やら雑誌やらが無造作に散乱しており、足の踏み場がない。
しかも部屋にはタバコの臭いが染み付いている。
立派なマンションだというのにもったいない。宝の持ち腐れだ。
あたしが眉根を寄せて部屋を見回す様子を先生は眺めていた。
「そうか?一人暮らしの男にしちゃキレイだと思うぞ」
先生はそこらに転がっている物を蹴散らして通り道を作った。
「じゃ、あのソファにでも座ってなさい」
「はーい…」

「匂坂何飲む?」
キッチンの方から声が聞こえた。
「えーと‥紅茶」
「ねぇな」
「えー?‥麦茶」
「残念。切らしてる」
「‥。じゃあ何ならあるんですか?」
「無糖コーヒーと牛乳。と水」
「カフェオレ作って下さい」
「おーし、分かった」

あたしはソファに体を沈めて、先生がいつも過ごしている空間をまた眺めた。

ベッドの上に山と積まれた漫画。
スープがわずかに残った即席麺のカップと割り箸。

この部屋に女っ気は皆無と言っていいだろう。

やっぱり彼女いないのかなぁ‥などと考える。
思い切って訊いてみた。
「先生って付き合ってる人いないんですか?」
「いないね」
即答である。
「誰か紹介しろよ。お前の姉ちゃんなんかいいな。キレイだし」
マグカップをあたしに差し出しながら言う。
休日の部活のときなど、姉が自分を車で送り迎えすることがよくあり、先生はそのときに彼女を見たのだ。
あたしはカップを受け取り、つんと返した。
「姉には2年間付き合っている彼氏いますけど」
「へぇー。残念だな」
ふと先生を見上げると缶ビールのプルタブを開けているところだった。
「…」
声を失って、信じられない気持ちで先生を見つめる。

「ん?」
「いや、『ん?』じゃなくて!ちょっ、先生何やってんですか」
「え、何?」
ごくごくと飲む。
「うわわわダメですって!これから車運転するんでしょ?飲酒運転するつもりですか?」
先生は一瞬静止してから呟いた。「…ああ、そーだった」
「はぁ。もう、やめてくださいよ。酔っ払って事故でも起こしたらどう責任取ってくれるんですか?あたしはまだ死にたくありません」
「ばっか、事故らねぇよ。缶一本なんて余裕だって。おれ日本酒一升飲んでも運転するぜ」
開いた口が塞がらない。
「信じらんない。教師やめた方がいいんじゃないですか?どう考えても不向きだと思いますけど」
呆れた声で呟く。

まぁ、実際辞められたら困るんだけど。先生とあたしの接点がなくなるわけだから。

先生はふふっと笑った。
「不向きなんて分かりきってるって。つうかおれ自分がなんで教師目指したのかほとんど覚えてないんだよ。どうして教師になんかなってるんだろう、おれ。…あ、金八の再放送見て感動したからだっけな」

先生は真面目な顔して喋ってから、自分の言葉に笑った。
「何ですかそれ…」
あたしは少し吹き出してしまった。
救いようがない人だ。
でもやっぱり好きだから、イマイチ憎めないんだけど。


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