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レイジーマン
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レイジーマン-1

>>ねぇお願い。俺由佳ちゃんの顔見てみたいし。明日とかダメ?

>>ごめん、明日はカテ教あるから無理。

>>じゃあいつなら会えそう?

>>うーん、最近忙しいからあんまり時間ないかも…

>>ちょっと顔見るだけでもいいんだ。軽くお茶飲んだりとかさぁ。それくらいなら大丈夫でしょ?

>>え〜ホントに顔見るだけ?いやらしいこと考えてない?

>>考えてないよ〜。だから頼むって!

>>…じゃあ分かった、いいよ。今週末なら。

>>まじで!?やった〜


…と、こういうやりとりを経て会うことになってしまった。顔も知らないメル友の男と。

あたしは溜め息をついた。
今日は約束の土曜日。彼と会う日がやって来てしまったのだ。

あーあ。面倒くさいなぁ。別に会わなくたって楽しくメールしてればいい話じゃない。「メル友」なんだから。
あの男は何を思って会おうだなんて言ってきたんだろう。
そう不満に思いながらも、すでに約束してしまったことなので、あたしはちゃんと出かける準備をしていた。
相手がたかがメル友でも、約束を破りたくはない。
待ち合わせ場所は1時に駅の正面口わきにある自販機の前。相手は高校2年生であたしと同い年との話だが、それが本当だという確証はない。

気持ち悪いオジサンとかが待ってたらどうしよう…

あたしは嫌な考えを振り払って家を出た。
レモン色のブラウスにデニムのミニスカートという出で立ちだ。
日焼けをしていない白い足が陽に眩しい。
あたしとしては、もう少し日焼けして健康的な色になりたいのだけど、なかなか焼けないの体質なのだ。

あたしが駅の正面口に着いたのは約束の時刻の10分前だった。
周りに男の人はたくさんいたけれど、皆忙しそうにどこかへ向かっていて、誰かと待ち合わせしているようではなかった。
目の前をハトが呑気そうに歩いている。こんなに人間の近くを歩くなんて、余程人に慣れているのだろう。
何とはなしにハトを見つめていたとき、

「あれ、匂坂(さきさか)?」

聞き覚えのある声がして、あたしは顔を上げた。
目が合った途端どきりとした。
目の前にはあたしの所属する剣道部の顧問、浅尾先生の顔があった。
「ぅわぁっ、先生!びっくりした」
「そんなびっくりすることか?」
「しますよ」
あたしは初めて先生の私服姿を見た。
渋い柄のシャツに、茶色っぽいジーンズをはいている。
足元のつっかけサンダルがちょっと気にかかるが、それなりにセンスがあるらしいと見えた。

「お前、待ち合わせかなんかか?」
「あ、はい。そうです。先生は?」
「んー、おれはちょっと…」

そのときあたしは、後ろから誰かに軽く肩を叩かれた。
振り向くと、にきび面の若い男がニヤニヤしていた。細い目を更に細め、いやらしく下卑た笑みを浮かべている。
「君が由佳ちゃんかな?」
見た目通りのねちっこい声だった。あたしは思わず鳥肌が立った。
『由佳』はあたしがメル友にだけ使うハンドルネームだ。


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