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レイジーマン
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レイジーマン-4

ここに先生は住んでいるのか―

「茶でも飲んでくか?」
微笑みながら先生は言った。
「えっ、うそ、いいんですか?」
「…」
先生が笑顔のまま固まる。
「ただの社交辞令のつもりだったんだけどな」
「はぁ!?何ですかそれ!」
「まぁいいや。はいはい、寄っていきなさい」
先生はあたしの肩をぽんと叩き、エレベータ乗り場へ行った。
まだ不服そうな顔のあたしは、じっと先生の背中を見つめた。

教師のくせに、ダラダラしきっているこの男。生徒の手本になどまるきりなっていない。

先週だったか、最近分数の計算が怪しいんだよなとか言っていた。国語の教師とは言え、20代半ばでそれはないだろう。
しかも、おとついの部活のときに男子と一緒になってエロ本を読んでいた。

―…剣道うまいのがせめてもの救いだな。

エレベータの扉が開き、先生に続いて乗り込む。
大きなため息を漏らしながら、
あたしは自己嫌悪を覚えていた。
なんでこんな完全なるエロダメ教師が好きなんだろう。
馬鹿だ、あたしは。

そう、あたしはあの教師のことを愛しちゃっているのだ。
しかし、あの男のどこがいいのか自分でもよく分からない。

中身はさておき、見た目がいい
というのならまだ分かるが、そういうわけでもない。
背はまぁ高い。
しかし不細工ではないが十人並みの顔には、無造作に伸ばした黒髪がかかっていてどこか陰湿そうに見える。彼御愛用の薄汚れたつっかけサンダルはだらしなさを演出している。
けだるげな授業展開もあいまって、彼は女生徒から人気がなかった。エロ話で盛り上がれるという理由で男子からはまぁまぁ人気があるらしいのだが。

自分で自分が不思議だった。
彼のどこが好きなのかと訊かれても絶対に答えられない。
なのにすごくすごく好き。
先生が側にいると、
触りたい
とか
話したい
とか
ずっとこのままでいれたらいいのに
とか、そういう乙女チックなことばかり願う自分がいる。
まぁ、願うだけで実際にはさっきみたいに下らない口論してばっかりなんだけど。

部活で剣道を教わるうちに自然に目が彼を追うようになり、いつの間にか好きになっていたから、いつ好きになったのかも不明だし。

なぜ好きなのか。
いつ好きになったのか。

自分自身のことであるのにも関わらず分からなかった。
ガン患者がなぜ自分はガンにかかったのか、そしていつかかったのかなんて分からないのと同じように。
つまりこの恋はガンなみに意味不明・理解不能な代物ということだ。


「うわ…何これ」
どーぞー、と間延びした声に導かれて部屋に足を踏み入れたあたしの第一声だ。
「きたない…」
汚いというより、物が散らかっている。


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