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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵
【フェチ/マニア 官能小説】

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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵 3.-3

「そんなことも憶えるの?」
 驚いた顔で陽太郎を見ると、
「女の子らしい仕草を憶えたいんで」
 真面目な顔で友梨乃を見やっていた。
「……どうって……、リップが落ちないように少しずつ」
「じゃ、ラーメンとかズルズルっていかれへんわけですね。ほんま女子って色々大変や」
 陽太郎は感心した笑いを浮かべて頷いた。
「うん……。ね、藤井くん」
 友梨乃は少し思いつめたような顔で陽太郎を見た。「そんな熱心になっちゃって……、本当にアブナイ道に目覚めた……?」
 化粧の上達は想像以上であるし、女性的な仕草も貪欲に吸収しようとしている。今にしても、化粧をしたとたんに膝を斜めに崩したいわゆる「オネエ座り」になって、体の構え方も妙に艶かしい。
「……なんでそんな心配そうな顔してるんすか?」
「だって……、私のせいで藤井くんが変な道に走っちゃったら」
「変な道やないですよ」
 陽太郎は友梨乃を見つめた。友梨乃がしてやった時には無かった、ハイライトのシャドウまで入れてもともと明瞭な二重を強調し、アイラインのハネ上げまでしている。その瞳が友梨乃を見据えていた。「ユリさんのそばにいれるなら正しい道です。そばいたいから、頑張ってるだけです」
 友梨乃は鮮やかな眼が好きだった。その瞳が自分を見つめ、そして自分のためだと言ってくれて胸が甘く締まり、今度は頬が緩みニヤけてしまうのを隠しきれなかった。
「……とにかく、食べよ」
「ごまかしましたね」陽太郎は笑って、「……いただきます」
 二人でパスタを食べ始めた。キャベツとブロッコリーのシンプルなパスタは確かに美味しかったが、味付けがどうこうよりも彼女が家にやってきてくれて手料理を作ってくれている今の状況が旨味を何倍増しにもしていた。友梨乃が楚々と少しずつフォークに絡め取りながら食べているのに倣っていると、
「普通に食べてくれていいよ。……そんな食べ方だとおいしくないでしょ?」
 と言った。女性的な食べ方が様になっている。
「おいしいです」
「ウソ。いつもみたいに食べたほうがおいしいよ。無理しないで」
「無理なんかしてないです。要は唇をなるべく付けないように食べればいいわけですね」
 もともと器用なのだろう。アルバイトでの働きぶりからもそれは窺えたが、友梨乃の食べ方を見ただけで同じような所作ができる陽太郎に友梨乃は内心驚嘆していた。さっき、それは自分のためだと言ってくれた。思い出しただけでも、また顔が崩れそうになる。
「……藤井くん」
「なんですか?」
 パスタはもう巻取り終わっているのに、回し続けるフォークの先を見て陽太郎と目を合わせないまま、
「け、敬語じゃなくてもいいよ」
 と友梨乃は緊張に小声になった。「……つ、つきあってるんだから」
 危ない。陽太郎は友梨乃の言葉の嬉しさに、抱きしめて押し倒したくなるような衝動を何とか押し止めた。しかも友梨乃の方から言ってくれたのが頗る嬉しい。
「じゃ、ユリさんも『藤井くん』はやめてくださいよ」
「何て呼んだらいい?」
「お好きに」
 友梨乃はまだフォークを回しながら、
「……『藤井くんは』ダメなのに?」
 と口を尖らせて上目遣いに睨んだ。可愛い。不意に素でそんな表情を向けられると、本当に体が言うことをきかなくなりそうだった。これは修練が必要だ。
「多く作りすぎちゃった。こんなに食べれなかった」
 回していたフォークを置いて一息ついた友梨乃の皿にはパスタが半分近く残っていた。ファミレスで夕飯を食べる時にも感じたが、友梨乃はかなり小食なようだ。そんだけしか食べんでよぅその胸が維持できんなぁ、と、揶揄ではないが率直すぎてとても言えない感慨に包まれながら、
「置いといてください。明日食べます」
 と言った。
「いいよ。時間経ったらおいしくないし」
「……ユリさんの手料理を、明日一人でニヤけながら食べます。……さっきのユリさんみたいに」
 やはりニヤけた顔を見られていた。意地悪い指摘が友梨乃は悔しく、恥ずかしくて、また陽太郎を睨むと二人の皿を台所へ戻しにいった。
「手伝います」
 言って腰を上げようとすると、
「いい」
 と友梨乃は背中を向けたまま言った。「リップ、塗るの残ってるでしょ」
 余計なこと言うて怒らせてもうたかな。不安になったが、言われた瞬間の頬が赤らんだ友梨乃の顔を思い出して、陽太郎も口元を緩めながら、少しは移ってしまった唇の油をウェットティッシュで拭き取ると、リップペンシルで唇の輪郭をなぞり始める。
 友梨乃は自分が残したパスタをラップし、食器と作るときに使った料理道具を洗いながら、このまま陽太郎と過ごせば本当に自分が望む女になれるかもしれないと思い始めていた。それでまた口元が緩む。この顔を陽太郎に見られてしまっては、またからかわれる。陽太郎の愛情にいくら和まされるとはいえ、年下にからかわれるのは癪だ。


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