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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵
【フェチ/マニア 官能小説】

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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵 3.-2

「料理に使うと、ですか?」
「ううん。コレで顔とか体洗うの」
 友梨乃がボケるとは思えないので本当にそういう話があるのだろう。陽太郎が感心と感嘆を混ぜた相槌を打つと、料理にも使えるし便利だよね、と友梨乃が瓶を入れたので買い物カゴの重みが一気に増した。
 陽太郎は友梨乃が来るというので講義をサボって部屋の掃除をしていた。キッチン、風呂、トイレはもちろん、窓のサッシまで拭いた。二回行った友梨乃の部屋の様子から、友梨乃がキレイ好きだと思えたからだ。
「おじゃまします」
 友梨乃は陽太郎の部屋に入って見回すと、男の子の一人暮らしだからきっと散らかっているのだろうと思ったのに、あまりのキレイさに少したじろいだ。友梨乃の部屋がキレイなのは、部屋に一人で居てもすることがなくて思わず掃除してしまうからで、性根は潔癖症ではないどころか敢えてキレイ好きと言えるほどでもなかった。「……キレイにしてるね」
「あ、まあ……」
 重いスーパーのビニール袋をキッチンに置いて曖昧な返事をすると、部屋の真ん中でキョロキョロしていた友梨乃は陽太郎の方を振り返って、
「藤井くんってキレイ好きなの? お店の掃除も、全然手抜かないし」
「手、抜いていいんすか?」
「ダメだけど」
「実はそんなキレイ好きでもないです。……ユリさんが今日来るから必死のパッチで掃除しただけです」
「ひっしのぱっち?」
 キョトンとしている友梨乃の表情を見て、ああしまった、と、
「『最大限、頑張って』ってことです」
 照れ笑いをしながら訂正した。
「謎の言葉言わないで」友梨乃も笑って、「……でも、お店でもひっしのぱっちで掃除するでしょ?」
「それは……」
 陽太郎はオリーブオイルの大きな瓶をキッチンラックに置いて、「俺が中途半端に掃除して、指導担当が怒られるのがイヤやからです」
 不意にそんなことを言われて友梨乃は胸が熱くなった。人から好かれることがこんなに嬉しいものなのかと、鼻が膨らんで口元が緩んだだらしない表情を見られたくなくて一度俯くと、気を落ち着かせて、よし、と顔を上げてキッチンの方へやってきた。
「じゃ、私はパスタ作る」
「手伝います」
「いい。……あれから、練習、した?」
「……しました」
「じゃ、私が作っている間に成果見せて」
「わかりました」
 陽太郎はキッチンに友梨乃を残して部屋に戻ると、クローゼットから化粧道具が入った箱と置き鏡を出して、テーブルの上に置いた。最初キッチンに立つ友梨乃が見える方へ鏡を置いたが、振り返った友梨乃が化粧道具を出した陽太郎を微笑ましく見てきたから、恥ずかしくなって友梨乃と背中合わせになる方向へ置き直した。洗面所に行って洗顔フォームで念入りに顔を洗い、タオルでよく拭き取りながら鏡の前に戻った。
 友梨乃の部屋で化粧をした翌日に、かなりの額になったがネット通販で化粧道具を全て揃えた。そして毎日化粧の練習をした。最初自分だけでやってみたらひどい出来だった。ネット上の解説サイトを熟読したり、業務後のファミレスで友梨乃からコツを聞き、何度も練習していくうちに目に見えて上達していった。それが楽しかった。友梨乃にしてもらった化粧は、恐らくは友梨乃の理想の顔立ちなのだろう。そこにだんだん近づいていくのだから楽しくて仕方がない。化粧をしてから一度落とし、もう一度最初からやり直すことさえあった。冷静に省みると気色悪い話だったが、化粧をすると自分がキレイだと思うようになった。その気持ちに気づいた当初は、遂に変態に出来上がってしまったのかと危惧したが、そもそも化粧の目的がまさにそれなのだから当たり前だということに気づき、なお上達させるモチベーションとなって数日で陽太郎のメイクは飛躍的に熟達していった。
「あ、できたから、唇ちょっと待って」
 唇を縁取ろうとリップライナーを近づけていたところへ、パスタを盛った皿を両手に部屋に入ってきた友梨乃に制されて、えっ、と顔を向けた。そして、その顔を見た友梨乃が、えっ、と動きを止める。
「あ、え……、どうしたんですか?」
「ん……、んと、ゴ、ゴハンできたから、先に食べよ……?」
「あ、……はい」
 陽太郎は、テーブルの上に並べていた化粧道具を下ろして、パスタを置くスペースを作りながら、「……何でいま、一瞬ビクッてなったんすか? ……やっぱ変です? 化粧……」
 陽太郎の前と、斜向かいの場所にパスタを置いた友梨乃は正座で座り、暫くパスタを見ていたが、
「……なんでそんな普通にできるようになってるの……?」
 と呟いた。
「普通……、にできてます?」
「うん。びっくりした」
「よかった。猛特訓した甲斐がありました」
 陽太郎がほっとして笑うと、友梨乃はまだ目を逸らしたまま困ったような顔で笑った。
「……ごめんね、安易にパスタにしちゃったけど、よく考えたら麺類ってリップとか気にして食べなきゃいけないから、難しいんだった……」
「あー、確かにそんな感じしますよね。……口紅塗ってるときはどうやって食べたらいいんですか?」


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