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爛れる月面
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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5.つきやあらぬ-10

「ちょっと! ……止めてよ、そ……」
 それ、と言おうとしたところで、スピーカーから、
「……ほらぁ、何してるの? 笹倉くんも入って来なさい?」
 耳に入ってきた名前に、紅美子は言葉を止めたが、理解が全く追いついていかなかった。何の言葉を「ささくら」と聞き間違えたのだろう。必死に調和を図ろうとしている紅美子に更に会話が聞こえてくる。
「んー、もぉ、……そんなにモジモジして、可愛いっ。ほら、笹倉くんにご褒美あげるんだから、入ってきて」
 井上は目を細めて正面のモニタを見ている。紅美子は恐る恐るモニタの方へ顔を向けた。モニタの中の女は、画面に登場してきた方向へ顔を向けて手招きしている。ゆっくり画面がそちらの方へパンしていった。もう一人の男が映り込む。女に向かってとぼとぼと歩いてきた。
「……なにこれ」
 モニタの中で徹が立っていた。下唇を噛んで少し俯き、腕を下ろして所在なげに立っている。ジーンズにセーター、チェスターコート。コートには見覚えがある。二人で買いに行って、徹のために紅美子が見立てたものだ。そっくりだ。似ている。
「んふっ……、緊張しちゃってる? 笹倉くんっ……」
 女が徹に近づいていく。
「ねえっ……、なにこれ。……なによっ!」
 両手が使えない紅美子は、掛けられていた井上の手を肩を回して除け、身を起こすと井上の顔を覗き込んだ。「答えてっ!!」
「……」
 黒目だけ一度紅美子に向けた井上は、モニタに視線を戻した。モニタの中では、直立不動の徹に女が身を寄せて絡み突き、髪や頬を艶かしく撫で回してうっとりと見つめている。「可奈子は……、僕の二人目の妻は、こういうのが好きなんだ。色んな男に抱かれるだけでは満足できない。それをこうして撮って、誰かに見られるのが一番興奮するらしい。昔からそうだった」
「お前の女の話なんか知らねぇよっ!!」
 紅美子は鬼の形相で井上を睨みつけて叫んだ。「なんで徹がいんの!!」
「それは僕が聞きたい。……可奈子が言ってただろ? 客員研究員になったって。すごい偶然……、というわけでもないな。そもそも物理学の研究所を置く一般企業なんて日本にそう何社も無いだろ。可奈子が客員で招かれるくらいの大手なんて限定されてしまう」
 女が徹の顔に近づいていく。
「やめろっ!」
 モニタに向かって言ったが、女は震えている徹に濃厚なキスをし始めた。ドレスの裾から脚を出して徹の脚に絡みつかせ、首と腰へ腕を巻きつけて唇を吸う。その姿をずっとカメラが捉えていた。徹は硬く目を閉じている。
「……録画だ。やめさせることはできない」
 当たり前のことを井上が言い、ベッドサイドのチェストの引き出しからピースを取り出した。「……十年ぶりに吸う」
 咥えた短いタバコにジッポライターで火を点けた。濃密な煙が周囲に漂う。
「んんっ……、笹倉くん、いいのよぉ。抱きしめても、んっ……、触りたいでしょ?」
 頬を窄めて首を左右に振り、舌足らずな声で更に身を擦り付けて可奈子が徹を貪っている。やめて、徹はそんなことしない。垂らしていた手が震えながら可奈子の腰に添えられるのを見て、紅美子はそう思った。突き飛ばすんだ、その女を。
 だが徹の手は可奈子の腰に回され、手首の動きで力を込めて引いているのが分かった。
「いやだ……、なに? ……何してんの? ……徹」
 よく見たら唇を開いて可奈子の舌を口内に迎え入れている。女が押し付けてきても頑なに唇を閉ざせば済むことだ。井上がピースの濃度に咳き込んで、
「肺が痛い。……君、徹くんと一緒にいる時に可奈子に会ったか?」
 と訊いてきた。
「……会ったことないよ。あんたと居たレストランでだけ……」
「そうか……。……可奈子がいきなりコレを送ってきたんだ。結婚していたころは毎日のように違う男とヤッているビデオを見せられて抱かされたけど、別れてからは見せようとしてこなかった。なのに突然、送ってきた」
「……」
 井上は咥えタバコのまま、呆然とモニタを見ている紅美子を見上げ、
「……『レストランで会ったあの子と一緒に見て』と言ってる。僕に対して送ってきたのなら見なかった。だけど君まで指定しているから気になった。気になって見たら……、こんなことになってる」
 井上が経緯を説明したが、紅美子は返事もなくずっと可奈子に絡みつかれる徹を見ていた。
「……写真」
 やがて紅美子が息を呑んで呟く。
「ん?」
「……栃木に会いに行ったとき、帰りに徹が駅まで送ってくれて……。それを徹の同期が見てて、……そんで……、写メ撮ってて、あとで皆に冷やかされたって、……言ってた」
「……なんだ、そういうことか」
「あの女……、徹が言ってたリーダーだったんだ。私に……、気づいた……」
 モニタの中ではずっと徹にキスをしていた可奈子が、両手で無理矢理ドレスのストラップを掴ませると、
「脱がしなさい?」
 と言った。ぎこちない手つきで徹がドレスを引き下ろしていく。肩紐を抜く時に一瞬手を離すが、抜き取るとすぐに徹に絡みつき、更に濃密に唇を押し当てる。ピチャピチャという音をカメラが拾っていた。


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