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爛れる月面
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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4.月は自ら光らない-17

「研究グループのリーダーに、美人が婚約者だと研究が疎かにならないか心配だ、って嫌味言われた」
 冗談の嫌味だったのだろう、徹は笑いながら言った。
「徹の仕事の邪魔はしないっていつも言ってるでしょ。……疎かになんかならないよね?」
「うん。……キスしていい?」
「いきなり疎かになりそうなこと言わないでよ」呆れてふき出した紅美子だったが、「いいよ」
 徹は紅美子の唇を数度啄むと、舌を出し、紅美子が優しくその先端を迎えると抑えきれない衝動をぶつけるようにしゃぶりついてきた。いつもより鼻息が荒い。口に溜めた唾液を流し込まれて息が詰まりそうになりながら、自分の唾液に混ぜて徹に返し、
「……最近、徹のチューが変わった」
 唇から糸を引いて言った。
「変わった? どう?」
「前よりなんか……、激しい。栃木に行ってから」
「今までずっと近くにいたのに、離れて住んでるからだよ。……生身のクミちゃん見ると、たまんなくなる」
「ってことは……」紅美子は両手の爪の先で徹の顔を何本もなぞって、「結婚したら、ずっと近くにいるから、してくれないんだ」
「毎日するよ」
「ホントだな?」紅美子は徹の鼻を抓り、顔を引き寄せて目元や頬にキスをしながら、「し忘れたら、暫く口きかないよ?」
「いいよ」
 紅美子は徹の首に吸い付いた。涙がこぼれそうになる。何だか最近涙腺がおかしいな、全部私のせいだけど。そう考えながら首の肌を音を立てて強く吸って内出血させる。
「……キスマークも誰かに冷やかされた?」
「それは誰にも何も言われなかった」
「じゃ、明日徹が帰る直前にもっと強く付けようっと」
「いいよ」
 腰に回された手は絶えず擦っている。紅美子も徹の背中に手を回してセーターの上から擦り返し、
「何でも『いいよ』って言ってたら、私、ワガママになるよ?」
 と言ってから、もう一度首筋の別の所に吸い付いた。
「……、……。……クミちゃんのワガママって、二十年前からだよ」
「確かにそうだ。だって徹が何でも言うこと聞いてくれるんだもん」
「何でも言うこと聞くよ」
 紅美子は徹の首筋から離れて、至近距離で彼の目をじっと見た。
「何でも許してくれるの……?」
「うん」
「何でも……?」
「うん」
 徹の瞳に吸い込まれそうだった。危ない。何でも許してくれるのは、根底に一つの約束があってこそだ。分かっている。瞼が熱くなってきた。
「クミちゃん、どうしたの? ……泣いてる?」
 視界を埋める徹の表情に不安が広がる。
「ううん……。きゅーん、ってしてるだけ。ヤバい。チューして」
「ん」
 もう一度徹が唇を合わせてくる。体内に蔓延っている邪淫を全て浄化してもらいたくて、紅美子は首を左右に傾げて深く徹の唇を吸った。
「可愛いよ」
 耳元で囁かれると、本当に胸が蕩けそうになる。
「……私も、何でも許すよ」
 紅美子は徹の耳元で言った。「エッチな動画見たらダメだけどね。あと、秋葉原、徹一人で行ったらダメ。私と一緒じゃなきゃダメ。道に居るメイドさんに追いて行っちゃうから」
「いかないよ」
「徹を誰にも取られたくない。他の女で興奮するのもイヤ。……だから、何でも私にしていい。徹のしたいこと」
「俺も前から言ってるよ。クミちゃんを誰にも渡したくない」
「渡さないで」
 言って紅美子は涙が頬を伝ってしまった。徹はその雫を唇で拭って、
「愛してるよ」
 と抱きしめた。
「……。メイドさんのコスプレさせて何言ってるの?」泣き笑いの顔になって、「何して欲しい? ご主人さま」
「えっ……。んと……」
 紅美子は避妊薬を飲み始めて久しいのに、まだ徹に言えていなかった。徹は初体験のとき紅美子が言った約束を、ずっと守ってくれていた。紅美子の方からそれを無効にすることはできず、ずっと徹が求めてくるのを待っている。紅美子は心の中で、紅美子を生身で直接抱きたい、と言ってほしかった。
「……クミちゃん」
「ご主人様は、クミちゃん、なんて言わない」
「だって、クミちゃんはクミちゃんだよ」


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