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爛れる月面
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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4.月は自ら光らない-12

「う、あっ……!!」
 決して油断していたわけではないのに、男茎よりも細く、内部を広げてはくれない筈の指に、いきなり内壁を擦られて紅美子は鼻声を放って絶頂に達していた。だがこれまで何度も味わされてきたものに比べるとはるかに物足りなく、小波が引くと不完全燃焼な渇欲だけが全身へと澱んでくる。
「一回目にしては、物足りない?」
 図星を突かれて、紅美子は魘された貌で頭を振った。井上にコートの捻じりを掴まれていなければ、脚に力が入らず顔から床に倒れこんでしまいそうだった。大したピストンも行わず指が抜け出ていく。すると唯一下肢に残された、下着の中でクリトリスをずっと焦らし続けている玩具の存在が意識の中で強調されて不足感を更に煽られた。
「うわっ! ま、また……っ」
 息を切らせ、瞼を硬く閉じ、井上を請う言葉を吐きそうになっては飲み込んでいた紅美子は、背後にしゃがんだ井上にまたヒップの中心を啜られ始めた。柔門の周囲をほぐされ、そしてまた不意に指が突き込まれて、ごく軽微な絶頂へ押し上げられる。
 それでは足りない。もう、足りない。
 本来は、もどかしい性感を深い愉楽へ解放するのが絶頂の筈なのに、一カ月ぶりの井上の男茎との接触をほんの一往復思い出されただけなのに、唇と指による絶頂は、ただただ紅美子の体を貪婪にさせる懊悩を強めてくるだけだった。嘲弄を繰り返され、責問のような時間が過ぎていく。
「……イク間隔が早くなってきた」
 井上が媚門に指を添えたまま立ち上がると、猫背で震えていた紅美子を抱き起こし、「ちゃんと数えてる。次がもう六回目だ」
 陰湿さを滲ませた低音が、紅美子の心を抉ってくると、紅美子は睫毛に溜まった涙を落として、
「……も、もう……、ちゃ、ちゃんとしてっ」
 と訴えていた。
「ちゃんと?」
「狂う……、おかしくなる、もう」
 バストを弄っていた手が、胸元に差し込まれたスイッチにかかるのが見えた。
「おかしくなったらいいさ。それともやっぱり徹くんのほうが気持ちいい?」
 目の前で振動の強度が上げられると、ずっと雛先を弄んでいた玩具が指や舌とは違う攻め方でクリトリスを悩ませてくる。
「あうっ……! イヤッ……、こんな」
「言ってくれ。……どうしてほしい?」
 誘導する低い声。紅美子はかぶりを振り、
「……イカせて」
 おずおずと喉を震わせた。
「もう何回もイッてる」
「んっ……、そ、そうじゃなく、て……、ちゃ、ちゃんと……」
 井上の中指と薬指が少しだけ紅美子の内部へ挿れられると、クルクルと円周を広げてくる。「やあっ……」
 瞬間的に紅美子はあどけない声を発してしまった。
「徹くんとの時も、そんな可愛らしい声を出してるのか?」
「……言わないで、今。徹のこと」
「徹くんでない相手に、イカせろ、なんて言ってるクセに?」
「ううっ……、ちがう……」
「違わないだろ? で、ちゃんと……何だ? 言ってみろよ」
 決して奥まで差し込まれて来ない指に余計に意識が集中してしまう。
「して……」
 紅美子は項垂れて言った。「……ちゃんと、イカせて」
「足らない?」
「……、足らない……」
 井上が紅美子の髪を掴んで後ろを振り向かせ、強引に唇を貪る。紅美子は差し込まれてくる舌に誘われるままに、唇をだらしなく開いて口内を蹂躙させた。後ろから抱きかかえられ、指先だけを挿入されたまま、井上が紅美子を押して歩かせてくる。躓きながら一歩、一歩脚を踏み出す度、指先だけが擦る角度が変わってもどかしさが煽られる。
「ど、どこ……、な、なにすんの……」
 不安そうに歩かされていく紅美子だったが、向かっている先がバスルームであることには気づいていた。
「……あそこで君が思いっきりイッたら床が汚れるからな」
 お互い服を着たままバスルームに押し込まれると、シャワーの掛かった洗い場の壁に向かって立たされた。後ろから片脚を掴まれ、シャンプーやボディソープのボトルを床に転がして置き棚に乗せられる。壁に据え付けられた鏡には紅美子の下腹部のスカートの前面だけが映っていた。
「……! こんなところじゃイヤ」
「イヤなら、イカなければいい」
 いきなりずっと入口付近だけを弄っていた指が奥まで差し込まれてきた。後ろから挿れられた指の角度は、ベッドの上で井上に添い寝され、抱きしめられて正面から貫かれる時とは違う。声を発すると、狭いバスルームに反響して、こんな声を上げているのか、と自覚させられた。
「む、むりっ……」
「なら、イケばいい」


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