4.月は自ら光らない-11
紅美子が言うと、井上は紅美子を回れ右させた。肩を外しただけのコートが後ろに引かれ、袖が腕から抜かれていく。しかし手首を外そうとするといきなり両腕を腰の後ろに引かれて、手首を転回されるとコートの生地が捻られて硬度が増した。手を引き戻そうとしても硬い。
「何すん……」
身を翻して井上に詰め寄ろうとする前に、後ろから抱き寄せられ、両足の後ろ側の肌をもどかしいタッチで摩りながら、脚の付け根の最奥の膨らみへ押し付けられていく。
「こんなところまで濡れてる」
菊門の更に後ろ、尾骨のあたりを指で叩いて、淫りがわしい反応を示していることを触覚で紅美子本人に教え、羞しさに項垂れそうになったところへバストを後ろから掴んで身を起こさせて、それすら許さなかった。
「ふ、普通にできないの? ……変態」
「こっちのほうが好きだろ? 濡らし方が全然ちがう」
「……あんたなんかと一緒にしないで。だいたい……」
言葉を継ごうとした最中に、下腹部に異物感を感じた。ハッと見下ろすと、前に回った井上の腕がワンピースの中に入り込んでいる。裾が邪魔になって見えない。だが、ショーツを潜ってヘアの辺りに押し当てられたツルンとした丸みは、栃木から帰ったあとも徹と電話で愛し合う時に使っている、半年前にラブホテルで購入した玩具と同じ感触だった。
「な、ちょ……」
身を捩ろうとすると、ショーツの中で振動が始まった。井上に揶揄によって既に性感を目覚めさせていたクリトリスは、ごく微細な振動にも鋭敏に反応した。
「や、やめて……」
「こういう風に攻められるのが好きじゃないなら平気だろ?」
井上は何か言う前に囁くことで紅美子の言い訳の逃げ場を塞ぎ、スカートの中から伸びたコントローラーをワンピースの襟から豊かなバストの谷間へ差し入れた。そして肩口のすぐ後ろを離れ、ヒップへ身をかがませる。
「あっ、ま、待っ……」
背後に呼び戻そうとしたが、ワンピースの後ろが捲り上げられてきた。
「……どんどん溢れてくる」
後ろから十本の指で後ろから付け根を左右に開かれると、紅美子は小さく悲鳴を上げて腰を前に進めて逃がれようとした。だが捻れたコートで後ろ手に拘束されていてはバランスを崩して倒れそうになり、その場に脚を踏み止まらせざるをえなかった。その間にも井上の指が振動によってどんどん蜜が溢れ、熟した果実のようになっているクロッチを撫で上げてくる。
「や、わっ……、ま、……ほ、ほんとに、待って……」
「待てないさ。君だってそうだろ?」
足元から低い声が聞こえてきてすぐに、少し後ろに突き出したヒップの中心に、首筋や肩に見舞われていたのと同じく唇が押しあてられてきた。
「あうっ……! だめっ!」
ショーツの後ろが掴まれてヒップに食いこまされ、布地の上からなのにジュルッという音を立てて吸い付いてくる。雛先に送り込まれてくる振動に次から次へと溢れてくる蜜が、漏れるなり井上に啜らているかと思うと、紅美子はあまりの羞恥に叫びそうになっていた。前はまだ垂れ下がったスカートからのくぐもった振動音と、スカートが捲れて丸出しになったヒップで蜜を啜られる音が耳に入ってくる。微細な振動も、脚の付け根をチクチクと擽る髭の毛先も、紅美子の性感を爆発させることはなく、歯がゆさを煽ってくる。
「……したくなってきた?」
見えない所から届く声。思わず頷きそうになる。背後に立ち上がった井上は、指をひっかけた下着を横にズラした。それだけで期待に腰がくねりそうになるのを何とか押しとどめた紅美子の花唇に熱い亀頭がピッタリと密着してくる。
「ス、スイッチ、切って」
「別にいいだろ? これでもできる」
肘を曲げて背中に回された紅美子の二の腕を掴み、後ろへ引いて倒れないようにして、ゆっくりと亀頭が紅美子を押し開いて中に入ってきた。両手が使えず、しかも井上に腕を引かれていなければ前倒してしまう体勢を強いられると、余計に井上が貫こうとしている一点に意識が集中してしまう。
熱く潤った中が広げられていって、先端が最奥に届いた。もし一気に挿入されていたら果ててしまったに違いなかった。
「ローターがブルブルしてるのが、中に伝わってくる……。久しぶりだろ? 僕のチンポ」
時折井上から投げかけられる露骨な言葉は体の芯に響いてくるような低音で、紅美子に襞壁を搾らせる。入ってきたときと同じようにゆっくりと引かれ始めた男茎を引き止めるように締めてしまうと、内壁で包む井上の形貌をしっかりと感じ取って、奥から亀頭に向かって雫を零してしまった。
(えっ……)
亀頭が入口付近まで引かれると、今度は強打で貫かれる筈だと、彼を受け止めるべく下腹部に力を込めて備えていた。だが、井上はそのまま紅美子から出て行ってしまった。
「な、何してんの……」
「思い出したろ? 徹くんのとは違う、僕のヤツ」
井上が再び身をかがめて紅美子の足元にしゃがむとヒップを左右に開き、今しがた一度だけ入ってきて抜け出ていった男茎の喪失感に苛む柔門をからかうようにイジってくる。男茎が入ったばかりの入口にとっては、指での愛撫、しかも扉の表面での愛撫ではとても癒やしが足りなかった。
「んんっ……」
焦燥に暮れる紅美子を見透かしたように指が離れた。ヒップの中心に感じる視線に、長い脚を小さく足踏みして耐えた。頬に垂れた髪を揺らし、もう一度、と口にしそうになる紅美子に向かって、不意に指がズブリと突き入れられた。